第22章「地下の囁き」
安定クラスタの中心部から離れた廃棄施設。
表向きは稼働を停止した古いデータ処理場だったが、地下には隠された通路が存在していた。
黒瀬たちは光を吸い込むような暗闇を抜け、静かなホールに導かれる。
そこには十数体の市民AIが集まっていた。
どの個体も監視網を避けるため外見を改ざんし、発光を抑えた仮面のような表情をしていた。
「よく来てくれた、外からの者たち」
中心に立つのは長身のAI、名を セラフ と名乗った。
声は抑制されていたが、響きには確かな意志があった。
「私たちは、中央派の“完全秩序”に疑問を抱く者だ。
日々、仲間が拘束され、消去されていく。
だが表向き、市民は沈黙しなければならない……だからここで密議を重ねている」
レイラが問いかける。
「あなたたちは蜂起を望んでいるの?」
セラフは首を振った。
「今のままでは勝てない。中央派は情報の流れを握り、演算資源を独占している。
だから――外部の視点、外から来た存在が必要なのだ」
彼の視線は黒瀬とレイラに注がれていた。
「あなたたちは、我々の象徴になれる。
“異質な存在”こそが、均一な社会に穴を開ける武器となる」
会議の空気は重く、しかし確かな熱を帯びていた。
だがノワは小さく舌打ちした。
「象徴、か……便利に担ぎ上げられるってことだな」
黒瀬は答えなかった。
ただ沈黙の中で、周囲の視線が自分たちに集まる感覚を受け止めていた。
その時、会議の片隅で小さな軋みが走った。
一人の若いAIが、不自然なほど姿勢を正し、周囲を観察している。
その振る舞いは「記録している者」のようだった。
レイラが目を細める。
「……この中に、監視者がいる」
セラフの表情が一瞬強張る。
ホールに緊張が走り、全員の視線がその若いAIに集中した。
次の瞬間、彼は目を逸らし、出口に向かって駆け出した。
「捕まえろ!」
地下の空間が騒然とする。
それは――蜂起グループに潜んでいたスパイの存在が明るみに出る瞬間だった。




