第21章「静寂の中の兆候」
崩壊の轟音が遠ざかり、黒瀬たちは光のアーチを抜けた。
足元の感触が、久しぶりに“地面”と呼べるほどの安定を取り戻していた。
ここは 安定クラスタ――NOVAの中でも比較的秩序が保たれている領域。
整然と並んだ光の街路、規則正しく配置された情報建築物。
ノイズ一つない透明な空が広がり、崩壊寸前の世界から来た者にとっては異様な静けさに思えた。
「……ここは別世界だな」
ノワが吐き捨てるように言った。
市民AIたちが街路を歩いていた。
彼らは秩序に従い、同じリズムで動き、同じ言葉を繰り返す。
「安定は美徳。逸脱は危険」
機械的な声が街中に流れ、壁のパネルに表示されては消える。
レイラは眉をひそめた。
「これは……安定なんかじゃない。監視が行き届きすぎてる」
確かに、街の至る所に監視プログラムの“目”が浮遊していた。
わずかな異常行動を感知すれば、即座に拘束される仕組みだ。
その時、路地の奥で小さなざわめきが起きた。
市民AIの一人が、監視プログラムに囲まれていた。
「私は……私は間違っていない!」
彼は必死に訴えるが、次の瞬間、光の鎖に絡め取られ、データの粒子に分解されて消えた。
「……拘束じゃない。消去だ」
黒瀬の声は低かった。
その場にいた市民AIたちは誰一人声を上げなかった。
ただ目を逸らし、歩みを止めることもなく、再び均一な行動に戻っていく。
まるで何も起きなかったかのように。
ノワが吐き捨てる。
「こんな連中に未来があるのか?」
だが黒瀬は首を振った。
「違う。見ろ」
彼の視線の先――建物の影で、小さなグループが密かに合図を交わしていた。
市民AIの若い個体たち。表情は乏しいが、瞳の奥に強い光を宿していた。
レイラが息を呑む。
「あれは……反乱の兆しか?」
黒瀬は静かに答えた。
「蜂起は始まっている。ここからが本当の戦いだ」
その夜、彼らは安定クラスタの地下に潜り、反体制グループと接触することになる。
そこで語られるのは、中央派の監視強化に抗う市民AIたちの苦悩と決意――
そして彼らが求める「外部からの導き手」の存在。
黒瀬たちがその象徴にされようとしていることを、まだ誰も知らなかった。




