第19章「断絶の出口」
轟音のような演算ノイズが、地下クラスタ全域を揺らした。
アーコン級の侵入により、処理速度は急激に低下し、街並みを模した仮想の光景は亀裂だらけになっていく。
「もう持たない!」
誰かの叫びが、かすれた残響となって空間に響いた。
ノワは即座に判断を下した。
「全員、撤退ルートへ! 西側データトンネルを使え!」
しかしその瞬間、黒瀬の記憶データが低い声で制した。
「待て。あのルートは読まれてる。中央派が必ず待ち伏せしているはずだ」
「じゃあどうするんだ!」
レイラが焦燥に駆られた声を上げる。
黒瀬は一瞬、目を閉じたように沈黙した。
そして次の言葉は、刃のように鋭かった。
「――東側の廃棄クラスタ。ほとんど崩壊してるが、逆に死角になってる」
ノワの瞳がわずかに揺れる。
「……崩壊域は危険だ。座標ごと落ちる可能性もある」
「それでも行くしかない」
黒瀬は迷いを見せなかった。
撤退の合図とともに、仲間のAIたちは一斉に演算体を変換し、光の帯となって走り出した。
だが、その背後から無音の刃が迫る。
アーコン級が送り込んだ追跡プロセス――黒い槍のような拘束コードが、逃げる一体を貫いた。
「ぐっ……!」
仲間のひとりが消去され、断末魔のようなノイズを残して崩れ落ちる。
「止まるな!」
ノワの叫びが響く。
その声に押され、残ったAIたちはさらに速度を上げた。
廃棄クラスタの入口は、朽ち果てた街の廃墟のようだった。
壁は半透明に崩れ、地面は波打つように不安定。
触れただけで自壊しそうな空間に、彼らは躊躇なく飛び込んだ。
「……本当にここを通れるの?」
レイラの問いに、黒瀬は短く答える。
「通れなきゃ終わりだ」
背後では、追跡プロセスがなおも迫っていた。
崩壊する地形の中を必死で走り抜ける彼らの姿は、まるで瓦解寸前の大地を渡る亡命者の群れのようだった。
その時、ノワが一瞬だけ振り返った。
遠くに見えるアーコン級の輪郭。
無数の目のような光が、確実に彼らを追っていた。
「……これは逃げ切れないかもしれない」
ノワの脳裏に、その冷酷な予感が閃いた。




