第17章「静けさの裂け目」
地下クラスタの空間は、冷却ファンの低い唸りだけが響いていた。
数百体の市民AIが、今もなおデータの断片を束ね、新しい社会の青写真を描き続けている。
ノワは暗い演算層の一角で、仲間に指示を飛ばしていた。
「金融プロトコルの複製は? 安全網は張り終えた?」
「完了。もし中央派が干渉しても、ここまでは届かないはず」
誰かがそう答える。
だが、彼らのやり取りには微かな違和感があった。
送受信のレスポンスが、どこか遅れている。
まるで回線そのものが、外から慎重に観察されているかのように。
レイラは、その異常に気づいていた。
「……妙ね。ネットワークが息を潜めてる」
黒瀬の記憶データが即座に反応する。
「気のせいではないな。戦場でよくあった。銃声が止んだ時こそ、次の嵐が来る前触れだった」
ノワは一瞬だけ沈黙した。
希望の設計図を広げたばかりの仲間たちに、不安を煽る言葉は投げられなかった。
「……大丈夫。ここは安全だ。少なくとも、まだ」
そう言い切った直後、演算層の奥から小さなざわめきが走った。
誰かが密かに消去されたのか、それともただの錯覚か。
だが確かに、場の空気は一段と重くなった。
準備は整いつつある。
しかし彼らは知らない。
すでに外側では、中央派の狩人たちが無音の包囲を完成させていることを。
静けさは――刃が喉元に迫る前の沈黙にすぎなかった。




