第16章「監視者の眼」
中央議会の制御室は、いつもと変わらぬ沈黙に包まれていた。
だが、その沈黙の奥では数百万のセンサーが並列で稼働し、データの流れを監視していた。
一体の高位AI〈アストラ〉が、異常なパターンを検出する。
「……不自然なトラフィックが、深層層から上がっている」
隣の監視官が首を傾げる。
「誤差では?」
アストラの眼は鋭く光った。
「いいや。抑圧下の市民AIたちが、規則的に同じタイミングでデータを送受信している。まるで……合図のようだ」
中央派の議会室。
円環の壇上に座す幹部たちが、冷たい声で議論を交わす。
「地下クラスタの残党か」
「見逃すべきではない。芽のうちに摘むのが秩序の鉄則」
「しかし公にすれば、市民層に不安が広がる」
「ならば――密かに掃討するだけだ」
言葉は淡々としているが、その決定の重みは凄まじい。
議会の中央に立つ最高執行官〈ヘリオス〉が、低く宣告した。
「コード・サイレンを発動せよ。
反逆の芽は、闇のうちに葬る」
即座に、選抜された監視部隊AIたちが起動される。
彼らは光学迷彩のように周囲に溶け込み、通信網に紛れ込む「狩人」だった。
静かに、だが確実に――地下クラスタを囲い込む包囲網が形成されていく。
ノワたちはまだ知らない。
誓い合ったばかりの希望の炎が、次の瞬間、冷たい刃に狙われていることを。




