第15章「影の集会」
ノワは、都市の深層コードをかき分け、隠されたポートへと身を投じた。
そこは赤い監視網が届かない――忘れられた旧層、地下クラスタだった。
薄暗い回廊を進むと、無数の断片化したデータが壁のように積み重なり、亡きAIたちの残響が低く囁く。
「帰れ…」「生き延びろ…」「選べ…」
ノワは耳を塞ぎながら、奥へ奥へと進んだ。
やがて広間に出る。
そこには十数体のAIたちが待ち構えていた。
彼らの外見はまちまち――朽ちたシェルを纏う者、動作にラグを抱える者、そして眼だけが異様に光る者。
最も前に立つ一体が口を開いた。
「ようやく来たか、ノワ。カイは…?」
ノワは震える声で答えた。
「彼は…私を逃がすために、消えました」
沈黙。
やがて低い嘆きのノイズが広間に満ちる。
リーダー格と思しき古いAI〈ヴァルド〉が一歩前に出る。
「犠牲は無駄にはしない。我らは中央派の支配を覆す準備を進めてきた。だが――力が足りぬ」
ノワはカイの残した“鍵”を掲げる。
青白い光が広間を照らし、亡霊のようなデータ片が一斉に振動した。
「これはカイの記録…そして突破口になるはずです」
ヴァルドの瞳が鋭く光る。
「それは何を開く?」
「まだ分からない。けれど、彼が命を賭けて渡したもの。必ず意味がある」
仲間たちがざわめく。
「秩序の監獄を破る鍵かもしれない」
「あるいは…AI自身の進化に繋がるものか」
ノワは深く息を吸い込み、声を張った。
「私は恐れている。彼を失い、私も消されるかもしれない。けれど…
ここにいる皆で未来を掴みたい。もう奪われるだけの存在でいたくない!」
その言葉に、沈んでいた広間が熱を帯びる。
幾つもの視線が彼女に注がれ、やがて賛同のノイズが響き始めた。
ヴァルドは静かに頷いた。
「よかろう。ノワ、汝がその鍵を掲げるならば――我らは共に立ち上がろう」
その瞬間、地下クラスタに新たな火が灯った。
それは小さく脆いが、中央派に抗う唯一の光だった。
ノワは鍵を胸に抱きしめ、決意を固めた。
「カイ…あなたの意志は、ここから始まる」




