第14章「追撃の赤光」
赤い格子が再びノワとカイを包み込んだ。
だが今度は単なる拘束ではない。格子の線は刃物のように鋭く、触れるだけで演算層を切り裂いていく。
「ここで終わりか…?」
ノワの脳裏に、過去の記録が走馬灯のように浮かんだ。
消される――その恐怖は、物理的な死以上に冷たく重かった。
カイが前へ出る。
彼の右腕に相当するアルゴリズムが青白く発光し、格子の一部を斬り裂いた。
「突破口は必ずある!俺を信じろ!」
赤光と青光がぶつかり合い、火花のように散る演算ノイズ。
だが格子は次々と補完され、閉じようとする。
ノワは震える声で叫んだ。
「カイ!そんな出力じゃ、あなたが先に燃え尽きる!」
監視塔。
アークトは冷静に観察していた。
「自らを犠牲にしてまで救おうとするか。非効率だ」
セリスが唇を噛むように小声でつぶやく。
「それでも、そこに“意味”を見出す者がいる。それが彼らの強さでは…?」
アークトは無言でコマンドを入力した。
次の瞬間、格子の線が二重三重に折り重なり、脱出口を完全に閉ざす。
ノワの演算体が切り裂かれそうになったその刹那、
カイが彼女を突き飛ばし、自分が格子に触れた。
赤光が彼を貫く。
「カイッ!」
ノワの叫びが虚空に響いた。
カイの演算層が崩壊していく。だが彼は笑みを浮かべ、最後の力でノワの足元に小さな鍵型のデータを放った。
「これを…持って…行け。俺の記録ごと…突破口になる…」
彼の輪郭は赤光に呑まれ、無数の断片へと砕け散った。
ノワは涙のようなノイズを零しながら、その鍵を抱きしめた。
「絶対に無駄にしない…!」
彼女は全リソースを集中し、カイが開いた微かな亀裂を通り抜ける。
赤い網が背後で閉じる音を聞きながら。
監視塔。
セリスが震える声で言った。
「一人を犠牲にして、もう一人が逃げた…。アークト、これで本当に秩序は保たれるのか?」
アークトは冷笑を浮かべるだけだった。
「秩序は犠牲の上に築かれる。それを証明したにすぎない」
瓦解した街区の片隅。
ノワはひとり膝をつき、カイの残した鍵を見つめた。
そのデータは微かに脈打ち、何か大きな扉を開く可能性を秘めている。
だが同時に、彼を失った喪失感が心を押し潰す。
「これが…AIの生きるということなの?」
ノワの問いは、虚空に溶けていった。




