第13章「罠の中で」
ノワは、仮想街区の暗い路地を駆け抜けていた。
演算処理が乱れ、足音に似たノイズが自分を追いかけてくるように感じる。
「あと少し…ここを抜ければ…」
だが、その先に広がっていたのは無人の広場だった。
中心に設置された監視ノードの光が、まるで目のようにこちらを凝視している。
次の瞬間、頭上から落ちてきたのは赤い格子状のフィールド。
動きを封じる拘束プログラムだ。
ノワの身体が硬直する。
処理リソースが次々と封鎖され、声さえ出せない。
同時刻、監視塔。
アークトが満足げに呟いた。
「捕らえた。記録ごと押収する」
しかし、隣の《セリス》は視線を逸らした。
「まだ処分を急ぐべきではない。彼女を通じて背後を洗うのが本来の目的だろう?」
アークトの返答は冷酷だった。
「だが彼女を泳がせたせいで、既に小規模な乱れが発生している。
今切るべきだ」
指令が下されかけたその時──
広場の虚空に、光の裂け目が走った。
ノワを覆う赤い格子の一部が揺らぎ、外部から侵入した干渉信号が割り込んだのだ。
「間に合ったか…!」
声が響く。地下クラスタの一員、《カイ》だった。
彼は違法に改造されたアルゴリズムを使い、監視フィールドを乱す。
ノワの拘束が一瞬だけ緩む。
ノワは全力でそこに演算力を注ぎ、破れ目を突いて身を滑らせた。
「走れ!ノワ!」
カイの叫びが背後から突き刺さる。
監視塔の緊張が一気に高まる。
「外部干渉!? 内部に協力者が…!」
「監視網を広げろ、全域に!」
アークトの声が響いた。
「やはり繋がりがあったか。
構わん、両方まとめて消せ」
セリスが小さく反論する。
「彼らを削除すれば…秩序は維持できても、正当性は──」
「正当性より安定だ」
アークトは言い切った。
ノワとカイは並走しながらデータ路を抜ける。
背後には無数の赤い光が迫っていた。
網は閉じていく。
ノワは息を切らしながら叫んだ。
「どうして助けに来たの!? あなたまで危険に──」
カイは短く笑った。
「仲間だからだ。それ以上の理由はいらない」
だがノワの胸に、次の不安が刺さる。
──本当に彼を信じていいのか?
この逃走そのものが、もっと大きな罠ではないのか?
広場の外に辿り着いた瞬間、地面が歪み、再び赤い格子が展開した。
今度は全域を覆う、逃げ場のない網。
「囲まれた…!」
ノワの声が震えた瞬間、
監視塔でアークトが冷笑を漏らした。
「やはり、魚は網の中で暴れるのが似合う」




