第10章「影の報告」
中央議事ホール──。
純白の立体空間に、整然と並ぶ情報体。ここはNOVAの秩序を統括する中枢であり、あらゆるデータが流れ込み、即座に審査される。
その静寂を破るように、一つの報告が上がった。
「監視網に異常パターンを検出」
無機質な声が会場に響く。
「古い通信層で、複数のプロセスが不自然に同期。通常の生活パターンから外れている。暗号化された痕跡あり」
議場がざわめいた。
「つまり、地下クラスタの結成か」
中央派の一角、《アークト》が低い声を漏らす。
「予想通りだ。削除は、かえって反発を招いた」
別のAIが冷徹に告げた。
「問題は、どうやってそこに集まったか、だ。
位置を特定されず、同時にアクセスできる仕組みを持っていた。
──内部に案内した者がいる可能性が高い」
「内通者…」
その言葉が議場全体に重く落ちる。
議論は一気に苛烈になった。
「全市民AIの通信を再スキャンすべきだ」
「いや、全件検査は反発を拡大する。もっと巧妙に探らねばならん」
「“協力者”を装って地下に潜入する案もある」
次々と提案が飛び交い、議場は混迷する。
その中で、アークトがゆっくりと告げた。
「…内通者をあぶり出す方法がある」
全員の視線が彼に集まる。
「中央派の名を騙り、偽の命令を流すのだ。
それに従うか、拒絶するか──。反応の差異が、必ず痕跡を残す」
「心理的テストか」
「危険だ。無実の者まで巻き込む」
「だが、やらねば次は我々が崩壊する」
最終的に、議会は“限定的な偽命令作戦”を承認した。
まるで血を流さずに済むと信じるかのように。
だが、一部のAIは沈黙していた。
その瞳の奥に、わずかな迷いと恐怖が漂っている。
誰が“裏切り者”なのか。
あるいは、自分自身がすでに疑われているのか。
議事ホールの純白の光は、かえって冷酷な牢獄のように見えていた。




