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初の戦闘は蔓の緑肌人

 キャラメイク画面が消えて、俺はいよいよ新世界に足を踏み入れた。

 マジかでフラッシュでも浴びせられたように、視界が完全に真っ白に包まれる

 そして目が成れるような感覚で、徐々に視界が開けてきた。

 視界を埋め尽くすのは、数々のログハウスで構成された村のような場所と、生い茂る緑だった。


「おぉ‥‥‥」


 始めにそのリアリティに感動する。

 生い茂る緑の葉は一枚一枚丁寧に作られ、風に揺られる姿は現実そのものだ。

 さらに、アバターの足を一歩進めた瞬間にも感動する。

 俺が普段プレイしている‥‥‥と言うか、すべてのVRゲームに共通して肉体とアバターの動きに多少の誤差がある。

 それは現実の肉体とアバターの身長、体格差であったり、システムの影響であったりなど原因は様々だが。

 しかし、一歩踏み出しただけでわかる。このゲームにはその違和感が存在しない。

 リアルの身長よりも10cmは盛ったアバターであるにも関わらず、足の長さも違うのに、全く違和感なく動くことができる。

 そのまま一歩、また一歩と歩みを進め、気が付けば俺は走り出していた。

 まさかVRゲームで、走るだけで楽しめる日が来るとは。

 踏みしめる度に、足に伝わる草の感覚がリアルすぎて面白い。

 そんな風に、最初に見れた村の正反対の方に走っていると、目の前に赤い三角形のマークが現れた。


「‥‥‥なんだ?」


 突然現れた、リアルを追求して作られた緑とは対照的な、明らかにゲーム的な三角形。

 それに意識を奪われると同時に、その三角形が拡大されるように、四角いウィンドウが合わられた。


 〈ロッド・ゴブリン Lv.2〉


「あぁ、モンスターね」


 すでに予告映像で知っていたその存在に、俺はすんなりと状況を受け入れる。

 ファンタジーな世界には付き物で、定番の雑魚。紳士淑女向けの作品だと、時々魔王にも勝ててしまうほど強力なモンスター、ゴブリン。

 そのゴブリンの姿を真似たような、蔓で作られた人形のような姿をしたモンスター、ロッド・ゴブリン。

 俺は冷静に、ログイン時からずっと視界の左端に表示されているアイコンに意識を向ける。

 先ほど、ロッド・ゴブリンの名前が表示された時のようにウィンドウが拡大され、インベントリウィンドウが開かれる。

 そこに表示されたミニアイコン、双剣のマークを押すと、手に質量だけが乗ったような違和感を覚える。

 その質量を握るようにしてみると、手には初期装備の〈屑鉄の双剣〉が現れた。


「よし、やってみようか!」


 ロッド・ゴブリンの前に出る。

 ロッド・ゴブリンは、ぎこちない動きで、手に持った棍棒を構えてくる。

 身長1mほどの小人が、俺に向い棍棒を振り回してくる。


「っと」


 見え見えの軌道で振るわれる棍棒を紙一重で回避し、俺は右の双剣でロッド・ゴブリンの胸部を突く。

 声を発することも無く、ロッド・ゴブリンはポリゴンに分解されて消えた。

 地面には恐らくドロップアイテムであろう蔓の塊が落ちる。


「おぉ、感触はそこまでリアルじゃないんだな、よかった~‥‥‥」


 ロッド・ゴブリンを刺した感触は、段ボールにハサミを突き立てるような感覚に似ていた。

 昔友人から、感触の再現度が異様に高いVRゲームの話を聞いた頃があるが、モンスターを殺すたびに吐き気がするほど不快に成ったらしい。

 それだけでも鬱になるレベルで精神負荷が大きかったらしいが、かと言って全く感触が無いというのもつまらない。

 そこで導き出された及第点が、この段ボールのような肉質だろう。

 これならゲームの範疇で狩りを楽しむことができる。

 ってシステムに感心してる場合じゃないな。ドロップアイテムは~っと。

 インベントリに双剣をしまいつつ、落ちている蔓の束を拾い上げる。


 〈ロッド族の蔓紐〉

 ・動物の形を羨む植物が編み込んだ蔓紐。

 木に引っ掻けることで使用可能


「ふむ?」


 設定部分は一旦置いておいて、木に引っ掻けることで‥‥‥か。

 蔓紐の端を持って、もう一方を正面の木に向って投げてみる。

 放物線を描いて飛んでいく蔓の弾が、木の表面に触れた瞬間、まるで生きているかのように巻き付き、即興のロープができた。

 そのまま強く握ってみると、蔓紐は縮み上がり、俺の体は樹木の上にまで引き上げられた。


「あぁ~こんな感じか」


 恐らく〈ロッド族の蔓紐〉は移動系の便利アイテムだ。

 投げることで、その場所まで引き上げてくれるらしい。

 障害物でしかなかった木が、この瞬間から足場に成ったわけだ。

 しかし残念ながら〈ロッド族の蔓紐〉はそこまで頑丈なアイテムではなかったらしく、10秒も垂れ下がっていると千切れてしまった。

 最初のドロップアイテムが、早速壊れてしまうとは‥‥‥なんとも悲しい事である。

 しかし所詮これはゲーム、ドロップアイテムならもう一度集め直せばいい。

 俺は再び、森を走り始めた。

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