ねぇ、明かりをつけて。
第17回 空色杯 500文字以上の部 参加作品
テーマ「https://x.com/kro_ba_/status/1907052496520089679」
「明かりのスイッチが無いぞ」
「これよ」
カチッ。
あ、この形、小学校の社会科で見たことがあるな。
今どき、紐引きの蛍光灯なんて珍しい。
ジジジ……と、フィラメントが熱せられ、蛍光灯が点滅。やがて、安定した明かりを燈した。
こんな田舎に、ホテルなど無い。
大自然を背にキャンプ……も考えたが、移動だけで疲労困憊になるだろうと思い、ゆっくり体を休められる民泊を選んでおいた。
「いい場所だな」
「でしょ」
古民家と言えば古民家だが、単なる古い、くたびれた空き家。
しかし広さは十分すぎるほどだった。
「しかし……蚊が多いな」
「川の近くですもの」
俺は、床においていたリュックから蚊取り線香を取り出し、ライターで火をつけようとした。
「ん、湿気って点かないな……」
「えいっ」
「ちょっ、危ないよ」
彼女が後ろから抱きつく。その衝撃で体が揺れ、ライターの火は消え、煙が燻った。
「うふっ」
「まったく……」
彼女を背負った格好のまま、改めて部屋を見回す。
畳張りの居間。縁側から庭も望める。
外の景色はおそらく、田舎特有の情緒で溢れて、さぞ美しいだろう。
だた、残念ながら今は真夜中。
ド田舎の農村地帯。まばらに立つ家はどれも、明かりは灯っていない。
月明かりも、星も見えない。
真っ暗だった。
「ノリ悪いわね、こんな美人が同じ屋根の下よ」
「まぁ待てよ」
彼女を背中に感じながら、庭に停めたバイクを眺めた。
バイトに明け暮れ、その金でやっと取れた免許。どうしても欲しかったバイクは、奨学金を注ぎ込んで、かつローンを組んで購入した。
苦労して買った相棒とともに、田舎にツーリングと洒落込んだわけで。
「なぁ。ずっと後ろに乗ってて、疲れなかったかい?」
「全っ然! むしろ元気なくらい! あなたは?」
「俺ヘトヘトだよ……」
まだ慣れないバイクに、宿泊荷物、さらには彼女を乗せていたのだから、疲労感は半端ない。
「……でも、もう、寝かさないわよ」
ぎゅっ、と、彼女の手が俺の体にまとわりつく。
ふと、時間が気になりスマホに目を向ける。しかしこの場所は、ネット配線が無いどころか、スマホの電波も届かないところだと忘れていた。
画面は、さっきから真っ暗だった。
「夜は、長いもんな」
スマホを置き、俺は彼女の手を握る。
ひんやりと冷えた彼女の手は、火照っていた俺の体には心地よかった。
「夜なんて、明けさせないわよ」
「本当に? 明けない夜なんて無いけどね」
すると彼女は、目をパチクリとさせた。
「……あなたに会えて、よかった」
「幸せかい?」
「そうね。幸せかも。でもあなたは?」
「幸せだよ」
「ありがとう。私を見つけてくれて」
「もうしばらく、一緒だね」
「ううん、ずっと一緒が良かったけど……」
「……けど?」
「明かりが、見えてきたわ」
「ほんとだ」
「ずっと一人で、寂しかった」
「そっか」
「やっと、明るくなったわ」
「うん」
「これで」
「うん」
******
「次のニュースです」
ニュースキャスターが地方のニュースを読み始める。
「連日の雨不足で、ダム湖の湖底が露出し、沈んでいた民家から二人の遺体が見つかった事件の続報です」
キャスターが原稿のページをめくる。
「男性の遺体は、半年前から行方不明だった、都内大学生〇〇〇〇さんと判明しました。運転するバイクが湖に転落し、湖底に沈んでいたと推測されます。また、同じ民家から見つかった白骨化した遺体は、30年前に行方が分からなくなっている女性、△△△△さんではないかと思われます」
紙のページをめくる音と同時に、画面がが切り替わる。映像は、ダム湖周辺の曲がりくねった道路を映し出したあと、完全に干上がったダムの湖面に焦点が合った。
ダムに沈んだ旧村の形が残っており、古民家には警察が規制線を張っていたのが見える。
キャスターが原稿の続きを読み上げた。
「二人は、同じ民家跡から、折り重なるように見つかっており、警察は、事件事故の両面から捜査を──」