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運命なんてなかった

運命より大切なこと

作者: まつか

新しい出会いに前を向く話

「君が、『運命の番に逃げられた男』かい?」


そう言って酒場の隅で一人座り酒を飲んでいた俺の顔を覗いたのは、勝ち気そうな女性だった。



大好きな幼馴染がいた。

絶対に、彼女以外なんて考えられないくらいに。

学ぶ事が好きで口が達者な俺は、友人にも苦笑いをされ両親にすら呆れられていた。

そんな俺の話を、いつもニコニコと聞いてくれていた女の子。


ある日、俺の前から突然居なくなってしまったあの子は……。



「本当に、大好きだったんだ……。」

「うん。」

「彼女が番だなんて知らなかった、だから、俺……彼女に、酷い事を……。」

「そっか、知らなかった事に対して酷い事を言ったと反省してるなら、君は出来た人間だな。」

「…………ありがとう。」

酒の勢いで目の前の女性に全て話してしまった俺は、その言葉に涙を滲ませた。


「その彼女の事は、もう諦められたのかい?」

聞かれて、コクリと頷く。

「……本当は、まだ未練がある。番なんて関係なく好きだったんだ……。彼女が結婚する前に会いに行こうとした時は、婚約者に殴られたけどな。」

そう苦笑いすると、彼女の方が寂しそうな顔をした。

不思議な女性だ……。

「貴方こそ、俺に用があったんだろう?ここまで話を聞いてくれたんだ、礼も兼ねて聞かせてくれないか?」

そう言い真面目な顔をすると、彼女もまた背筋を伸ばしてこちらを真剣に見つめこう告げた。


「私と、結婚してくれないかい?」




目の前の墓に、花を飾る。

少し暑いくらいの陽気に、爽やかな風が心地良い。

「彼女を、必ず大切にすると誓います。だから、今生では俺が彼女と夫婦になる事を許してください。」

そう墓の主に請うと、少し強めの風が髪をグシャグシャにしていった。

ソレを見て、彼女がクスクスと笑う。

「彼は、器の大きな人だったからねぇ。きっと、君に『頑張れよ』と言っているのさ。」

「そうだと良いんだけどな。」

髪を直しながら、彼女に向き直る。


ここは、彼女の番だった人の墓だ。

彼女もまた幼馴染と番だったが、結婚間近に急な病で亡くなってしまったそうだ。

彼を番と分かる前から愛していた為それからは結婚する気もなかったのに、彼女を心配した両親から持ち込まれる度重なるお見合いに辟易し番と仲違いしたと地元で有名だった俺に声をかけてきたらしい。


「今生は番がもういない君なら、どこかの誰かを傷付ける心配もないからね。君には申し訳ないけど。」

俺に番の話をしてくれた彼女が、そう言いながらまた寂しそうな顔をした時に俺の心は決まった。




「結婚式なんて、わざわざしなくても……。」

そう照れながらドレスを合わせる彼女は、とても綺麗だ。

「ご両親の為もあるけど、俺がしたいんだよ。……嫌だった?」

そう聞くと、彼女は照れ笑いで首を横に振る。

「嬉しいよ、嬉しい……まさか、こんなに綺麗なドレスを着られるなんて思わなかった。」

そう言いはにかむ彼女の笑顔は、最初に会った時の影のある表情からは想像もつかないほど明るくて。

俺は、今度こそ間違えないようにしようとその笑顔を胸に刻んだ。



なぁ、番だった君も、今、この世界のどこかで笑顔でいてくれているのだろうか?

都合が良いとは思うけれど、俺の事なんて忘れてあの彼と幸せでいてくれたら……それはちょっと寂しいけれど、でも、そう願わずにはいられないんだ。

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