だが断る
小学5年生1学期から始まったクラス全体の嫌がらせ。
物は失くなるし、友だちだと思っていた生徒は会話もしてくれなくなった。今思えばトップグループの存在感は半端なく、私を庇えば矛先が自分に向かってくるかもという恐怖は多大なものだっただろう。実際、担任を庇った瞬間から矛先が私に向いた様子を目の当たりにしているのだから火を見るより明らかだ。
しかし3学期頃になると雰囲気が少しずつ変わってきた。
まず私を吊るし上げすだけの終わりの会が減った。担任が急に学校を辞め、教頭がいるのだから終わりの会にいるのも当然教頭。どんな先生だったか覚えていないが、教頭ということはある程度経験年数もあるだろうし、吹けば飛びそうな担任とは違って場数を踏んだ先生だとは思う。
流石にそんな教頭の前で一人の生徒を吊るし上げるようなことができなくなったのだろう。
それでもトップグループの誰かを吊るし上げたい衝動は留まることを知らなかった。しかし私をターゲットにすることに飽きたのか、ある日、私が友だちだと思っていた生徒たちにその矛先が向いた。
以前放課後残っていた話を再度取り上げ、私以外の生徒を対象に攻撃を開始した。
「放課後残るのはいけないと思いまーす」と吊るし上げが始まったのだ。「あぁこのセリフ私が言われたやつじゃん」聞いていて気分の悪いものだった。
吊るし上げられているのは私への態度を急に変えて話もしてくれなくなった元・友だち。自分が言われていないから「あぁ安心」とはならなかった。
とことん私の中の正義感は仕事の仕方がなってなく、やはり黙っていられなかったのだ。黙っていればいいのにまたしても元・友だちを守らなきゃという衝動にかられた。「何か意見はありますか?」と日直が言うので手を挙げて「もうそういう誰かを対象に責め立てるのはやめませんんか?」と発言。言葉にしてから一瞬で頭に水をぶっかけたみたいにひゅっと冷静になる。「またやってしまった」という激しい後悔が襲う。
また自分に矛先が向く。そんな覚悟をした次の瞬間「流石いいこと言う~!」とトップリーダーの中の部下的男子が言った。数日前まで私を喜々として攻撃していた男子だ。その発言に乗っかるように「そうだ!もうやめよう!」とトップグループの部下的数人が賛同し始める。そして新しい対象を見つけた吊るし上げの会はぷつりと終わった。
私はだいぶ混乱した。今までの流れからは想像できない終結の仕方だ。
トップグループの生徒たちは、先生に個人的に指導でもされたのか?
私に攻撃をするなとでも言われているのか??どちらにせよ気持ちが悪い。
その日を境にトップグループの部下的男子は私に気さくに話しかけ、嫌がらせでも何でもない普通のあだ名で呼び、和気あいあいと会話に混ぜてくれた。トップの女子だけは話しかけてくることもないがその代わり攻撃もしてこなくなった。そして元・友だちも以前のように私に話しかけるようになった。
単純でお幸せな私はその様子が嬉しいと感じてしまう部分もあった。
しかし人の二面性が切り替わる瞬間を見てしまった事により「この人の笑顔は本気の笑顔なのか?」と常に思うようになった。元・友だちとまた仲良くなれるのか?以前のように楽しく過ごせるのか?
「だが断る」だな。ここで使うっきゃない某名台詞だな。