悪役令嬢アクレアは不思議な邂逅を果たす
公爵家令嬢アクレアは公爵家の一つカレイシア家にて生まれた。優しい両親優しい兄に恵まれ末娘ということで甘やかされ何不自由のない少女時代を過ごしていた。
その中アクレアは公爵家の一人としてこの国の王子フレイアルドの婚約者候補となる。
父に連れられ王城へ登城したときフレイアルドに初めてあい、少女だったアクレアはすぐに恋に落ちた。
青空のような青い髪は陽の光を浴びて銀色にも輝いている。つりあがり無表情であれば気難しそうな印象を受ける太陽のような金色の瞳はこちらを見ると優しげな表情に代わりにっこりとアクレアを写している。ピンク色の薄い唇でアクレアに声をかける。
「初めまして。私はフレイアルド・フォン・カンダルシア。君の名前は?」
少年特有のソプラノボイスがアクレアの耳に届く。春の小鳥の囀りのように美しい声に魅了されながらアクレアは丁寧に挨拶を返した。
その日からアクレアは王子フレイアルドしか見えていなかった。
その日から王子フレイアルドの正式な婚約者となるためアクレアは厳しい王女教育に耐えた。
後にフレイアルドには弟ができることになるがこの時はまだ次期カンダルシア王候補は王子フレイアルドしかいなかった。
この国では国をより良くするため時期王となる王太子の婚約者は何人もの候補者を決め、その中から一番優秀な人材を選ぶ決まりである。代によっては正室とならなかった候補者を側室として迎え入れていた。
もし正室との間に子を授かることができなければそちらから子を作り王族の血を絶やさぬようにするのだ。
今代のカンダルシア王は自身の妃を深く愛しており、側室を作ることがなかった。子には中々恵まれなかったがそれでも他を作ることは無かった。
臣下たちが次代の王について不安になる中やっとのことで王に子供が生まれた。
その子がフレイアルドでありカンダルシア王夫妻は彼を大事にしていた。またやっとのことで生まれた次代の王に臣下達も王子の事を大切にしていた。
だからこそ王子フレイアルドの婚約者は今までの王の婚約者候補よりも厳しく選ばれることになった。
アクレアはそんな選ばれる事事態が難しい時代の婚約者候補となってしまったのだ。どんなに努力しても結ばれる事がないかもしれない。けれども少女時代のアクレアはできうる限りの努力をした。
月日がたち、アクレアは16歳になる年になった。
ここカンダルシア王国では、16歳になった子供は庶民貴族関係なく20歳になるまでの四年間をカンダルシア学園で過ごすことになっている。
全寮制であるこの学校では魔導をはじめとして全校生徒が貴族同様に教育を受けることができる。特に魔導は相当な特殊な生まれで無い限りこの学園で初めて学ぶことになる。そうして優秀な人財を育てるのが国としての考えのようだ。
そんな学園で過ごすことになったアクレアは同じ歳である王子フレイアルドと学業を共にするのを楽しみにしていた。
婚約者候補達は公平性をきすため、王によって全員均等にフレイアルドに会うように交流の機会を少なくされていた。そんなフレイアルドと邪魔がなく交流できる学園生活は婚約者候補達にとってはまたとない機会。そしてアクレアにとっては愛する人と愛を育む時間になるのだ。
しかしそれは淡い夢となる。
入学前の日、王女教育の努力の甲斐あってアクレアはこの頃には5人までしぼられた婚約者候補の一人になっていた。
アクレアは自信を持っていた。自分が一番フレイアルドの婚約者にふさわしいと。両親に無理を言いこの学校で初めて学ぶはずである魔導もあらかじめ学んでいる。必ずフレイアルドの妃になると。
「私が一番フレイアルド様に相応しい。待っていてくださいませ、フレイアルド様。アクレアが貴女の心を射止めてみせますわ。」
自室で妃として相応しいように磨き上げた美しい自分の容姿にうっとりしながらアクレアは呟いた。
しかしいざ、学園生活が始まってみると磨き上げた美貌も努力も無駄であったかのようだった。
他の婚約者候補達が優秀すぎたのだ。
まず第一に予め学んでおいて他と差をつけたと思っていた魔導はただただ自身の自己満足にすぎず、他の婚約者はと思えばアクレアと同じく予め魔導を学び才覚を表していた。それだけではなくそれぞれが選ばれる理由を大きく持っていた。
一番爵位が低い家の男爵家のシオンシャーネ・カシオトヤは魔導四大属性の1つ地属性に優れ、頭も良く既にカシオトヤ家では1つの商いとしてアクセサリーブランドを任されていた。アクセサリーデザインもシオンシャーネ嬢がデザインしている。
このブランドは貴族に特に好まれそれだけでも力の誇示ができるほどだ。
またカシオトヤ家のアクセサリーは男性の物も取り扱っておりフレイアルド王子も特に気に入ってこのブランドを使用している。
貴族たちへの示しや王子のお気に入りとなるとこれだけでも1つの魅力だ。
二番目に爵位が低い家の子爵家のルースタブリア・フォン・パッカツは魔導四大属性の1つ水属性に優れている上、騎士の家系パッカツ家に相応しく武に既にいくつかの武勲を王に捧げている。
王からのパッカツ子爵のへの信頼も後押しして、もし妃に選ばれなくとも近衛騎士に任命されるのではと囁かられる。
またフレイアルド王子はパッカツ子爵から剣を教わったらしくルースタブリア嬢自身フレイアルドの婚約者候補となるまでは親しく幼なじみのようにしていたそうな。
三人目は公爵家。魔導四大属性の1つ、火属性を操る令嬢ベゴニア・フォン・ビレイヤーネは重臣ビレイヤーネ家の娘だ。
彼女は他国との外交官である父の存在からか他国の文化教養を身につけ知恵ものであるが、それがなくとも誰もが羨む美しい令嬢だ。
美しさだけでいえば1番フレイアルドと並ぶに相応しいとされる。外交と民を魅了する美しさを考えるだけならば彼女が最有力となる。
また社交界の場で婚約者候補の中では唯一フレイアルドからダンスの誘いをもらったとか。
最後に同じく公爵家から魔導四大属性である風の魔導を得意とするラグラスフィア・フォン・ジョアルセイだ。
彼女は魔導公爵の名で知られるジョアルセイの家に生まれ出、類稀なる魔力量の持ち主で幼い頃から魔導を仕込まれていた。
その上大気を感じる才能に恵まれ大魔導の1つである天候を操る魔導を習得。雨や晴れ、嵐おも操る彼女は農民の手助けとなり国に豊穣をもたらしている。
国民には豊穣の女神だと慕われている彼女と婚約を結めば民たちはフレイアルド王子をより慕うことになるだろう。
そして公爵令嬢のアクレアはというと、彼女たちに比べると秀でたところは無いと言ってもいい。
血のにじむ思いで学んだことは知性溢れる商人淑女シオンシャーネには勝てず、
既に武勲をあげ近衛騎士になるともいわれるルースタブリア嬢のように戦の才はアクレアには無い。
自身を持っていた美しさもベゴニア嬢には到底及ばず、
ラグラスフィア嬢のように特別な才能で豊穣をもたらすことも無い。
次第にアクレアは他の候補者と見比べられ、学園では
『爵位が高いだけの候補者』
と呼ばれるようになってしまった。
アクレアは最初こそは気にしないように我慢し、フレイアルドと接していた。
しかし知ってしまったのだ。
フレイアルドと仲が良い平民の娘ベローズの存在を。
ベローズとフレイアルド王子が互いに恋をしているかのように見つめあっている様を。
他の婚約者候補にも認められ愛されるベローズを。
今まで、あなたのために頑張っていたのに。
我慢できなかった。
アクレアは嫉妬にかられた。
初めは小さな嫌がらせ。お茶会の席でお友達にベローズについて悪い噂話を。でもベローズは性格の良い娘で友人が味方をして、無くなった。
飽き足らず、次第にベローズの私物を破損させた。でもベローズは教師にも愛されていたようで買い与えられたようだ。
しまいには暴漢を雇い汚そうとした。でもアクレアの不自然に気がついた優しかったアクレアの兄にベローズが守られた。
優しかった兄に諭されてもアクレアは嫉妬と不安を募らせた。
兄に伝えられ、優しかった両親もアクレアの為に動いてくれることはなくなった。
アクレアはもはや止まれなかった。
何からも愛され守られるベローズを許せなかった。
アクレアはベローズもその周りの人間も全て全て恨んだ。
初めは兄。
暴漢を雇った時にできた怪しい商人を利用し、暗殺者を差し向け殺した。
兄が死んで悲しむ両親が唯一になってしまった娘を再び大事にするように過保護になってくれた。
次にベローズの友人達。
その中には他の候補者もいたがアクレアが『爵位が高いだけの候補者』と呼ばれたのは他の候補者のせいだと決めつけ、彼女たちもベローズ共々憎んだ。
それもあり順番に陥れる。
ベローズの友人達は公爵家に逆らった罰という名目でありもしない罪をきせて両親に屠らせた。
才女であったシオンシャーネ嬢は、横領の疑いをかけその上でデザインした物は全て誰かの案を盗んだ罪をきせ家から勘当された。
その後のシオンシャーネ嬢はアクレアが雇った浮浪者から汚され性病で亡くなったらしい。
武に優れたルースタブリア嬢には、アクレアがやったこととは知られないよう父パッカツ子爵からのプレゼントとして香水を渡させた。
あまりオシャレに頓着のなかったルースタブリア嬢はそれを使用したそうだ。
その香水には分からないように獣が血を好むようになるフェロモンを織り交ぜていた。
ルースタブリア嬢は血を好むようになった愛犬の手にかかり亡くなった。
美しいベゴニア嬢には、他国から取り寄せた死を呼ぶカビからできた特別なチーズを食事に織り込ませた。
彼女は普段から他国のチーズを好んで食べており、入れ込むのは意外と簡単だった。
ベゴニア嬢はその後病にかかり、美しかった顔は最後には爛れ息を引き取ったらしい。
ラグラスフィア嬢は、その異常な魔導の扱いから魔女の疑いをかけてやった。
最初こそは信じなかった農民であったが、ラグラスフィア嬢が天気を操った地域を順番に作物を枯らす毒を振りまいてやった。
そうしたら勝手に作物が枯れたのは彼女のせいだと騒ぎ出してくれた。そうして怒った民衆の手にかかり民を愛していたらしいラグラスフィア嬢はそのご自慢の魔導で攻撃も出来ずに殺されたらしい。
最後にベローズ。
あの忌々しき女を、フレイアルド王子を誑かした魔女を殺す。
しかしあの忌々しき女はこともあろう事かフレイアルド王子と共に、アクレアとその両親が友人達やアクレアの兄を死に追いやったことを調べ尽くしたらしい。
ベローズをこの手で最後に殺してやろうと、差出人がアクレアと分からぬようお茶会へ招待状を送った。
勿論ベローズをおびき寄せるだけの罠であったが…会場に訪れたアクレアを待っていたのはベローズを寄り添わせるフレイアルド王子。そして娘を失った候補者の家族達や学園の人々…どうやら王国兵にも囲まれている。
アクレアは他でもない愛するフレイアルド王子と憎き女に罪を暴露され、候補者達を手にかける手引きと死のカビを国内に持ち込んだこと、そして多数の作物を腐らせ国を傾けたことによる罪で、王国兵に捕まり処刑された。
処刑の日、処刑を見守るフレイアルド王子の悲しそうな泣き顔がアクレアが最後に見た光景だった。
こうしてアクレアの人生は幕を閉じた。
アクレアは真っ暗な不思議な空間で目を覚ます。
最後に写った愛するフレイアルド王子の顔が頭にべっとりうつっていた。
その顔が止まらなくなってしまっていたアクレアに後悔の気持ちを落とした。
後悔しても、もはや遅い。
真っ暗な空間でアクレアは涙を流した。
「……あ…さ」
「………あ…れ…さ…」
何か声が聞こえる気がするがアクレアには届かない。
「アクレア様!!!」
大きな声にハッとなりアクレアは顔を上げる。
目の前には人がいる。しかしその姿は…。
「…フレイ…アルド…様…???」
アクレアが愛した、フレイアルド王子の幼少期であった。
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