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他人のクローンへの転生実験(4)

 他人からの転生用としてエクセル・バイオが「冒険者」で育成しているクローンは、佐藤洋子の他に9名となる。佐藤洋子のようにエクセル・バイオの研究所に転籍した者はいないが、グループに残っている者が3名いた。ちなみにそれ以外の6名は、最初の報酬を受け取った後に退職している。

 エクセル・バイオ・グループに残った3名を「冒険者」に招聘し、引き続き「他人のクローンへの転生実験」が行われる。初の宇宙に戸惑う3人であったが、最初のクローン作成時と同等の高額報酬に否はなかった。「冒険者」の研究室には9名のクローンが準備され、3人の母体者が同席していた。ストレッチャーに寝かされた9体のクローンは、サイズの違いはあるものの全員人形のような整った顔立ちである。母体者の面影はほとんどない。

 今回からの実験にはヴィクトール、ユリとリリーに加え、佐藤洋子も転生被験者として参加している。彼女も幽体離脱が自在なので、「DDPS-POPCER System(魂の緒を切り離し、オリジナルから射出し、クローンに憑依し、再生を確実にするための装置=Device for Detaching the Psyche-Soma Linking Thread, Projecting it from the Original, Possessing the Clone, and Ensuring Rebirth System)」を介さずに憑依できるからだ。もっとも今回の「他人のクローンへの転生実験」に「DDPS-POPCER System」は使用できない。使用者の魂の緒を切り離してしまっては、使用者の幽体が元の肉体に戻れなくなってしまうのだから。


 グループに残った3人のクローン母体者の目の前で、ヴィクトールたち4人の被験者は代わる代わる憑依をしていく。

 佐藤洋子にとっては初の憑依体験だ。幽体離脱をしてクローン体に幽体を合わせるようにする。霊感にて見えていた視界が、一度暗転する。夢から覚めるような感覚に陥った。ゆっくりと目を開け、辺りの様子を窺う。手足指を動かして、感触を確かめる。想像以上に違和感がない。

「ヨウコさん、ご自分の姿を見てみますか?」

 一人の少女が手鏡を渡してきた。どうやらクローン体に憑依したリリーのようである。

「これが・・・私?」

 佐藤洋子は自分の顔をペタペタと触ってみた。少女の張りのある頬が、自分ではないことを実感させる。鏡に映った人形のような整った顔の美少女。口を動かしたり目を閉じたりして、自分が鏡に映っているのだと認識する。何だか合成映像を見ているような気分になった。

 一通りに体を動かし違和感がないことを確認した後に、クローン体から幽体離脱をして自分の体に戻った。全身を倦怠感と疲労が襲う。

「ヨウコさん、しばらく休んだ方がいいですよ。私たちも最初は、ものすごく体がダルくなりましたから」

 クローン体に憑依したユリが、佐藤洋子を気遣う。

「お疲れ様です、ヨーコ。詳細な検証は必要ですが、『PSC(魂糸符=Psycho Strands Code)』配列が合わなかったのかもしれません。個体差はかなり大きいようですが、ヨーコにも憑依が出来ることがわかっただけでも収穫です」

 ヴィクトールが佐藤洋子に水を渡しながら言う。佐藤洋子は少しだけ、ヴィクトールの役に立てたのだと一息ついた。


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