他人のクローンへの転生実験(1)
エクセル・バイオの新設備「冒険者(クローニング・エクスプローラー =Cloning Explorer」が稼働して、はや5年が過ぎようとしている。その間に「CROUN(クローンによる複製オペレーション連合ネットワーク=Clone-based Replication Operations Union Network)」による共同クローン工場の建設計画もすでに5号棟までが粛々と進められていた。
エクセル・バイオのクローン研究は地上から宇宙へと舞台を移したことで、これまでの倍速育成をさらに進化させている。宇宙空間という無重力環境と、重力子によるピンポイント加重を組み合わせることで3倍速育成を可能としていた。「冒険者」で育成されていたクローンはエクセル・バイオの新技術によって15歳相当の成体となり、転生実験の準備は万全となっている。
今回の実験では、ヴィクトールがオリジナルへの再転生実験した時と同じ3人の研究員の他、ユリとリリーの双子の姉妹と佐藤洋子が新たに加わっている。3人はテレパシストとして優秀なだけではなく、ヴィクトールと同様に幽体離脱も自在にできるようになっていたのだ。幽体離脱が出来るのであれば、やがて自力でも複数憑依転生に辿り着く可能性が高い。ヴィクトールは彼女たちを信用することにした。
「え?これが私のクローンなんですか?」
佐藤洋子が驚くのも無理はない。「佐藤洋子のクローン」としてストレッチャーに寝かされた少女は、小顔で手足もスラリと長い。肌の色も透き通るように白く、髪も黒髪ではなく茶色がかっていた。
「与える栄養の成分調整で、肌の色も髪色も多少は変わります。手足が長いのはピンポイント加重と計算された電気刺激による成長促進効果ですね」
「・・・顔は?」
「悪い例えかもしれませんが『四角いスイカ』を作るようなものです。シリコンマスクを装着させて、顔面を矯正させながら成長させています。個人的には人形のようで、私の好みではないのですが・・・ヨウコも気に入らなかったですか?」
佐藤洋子は千切れるかと思うほどの勢いで、首を横に振った。
「気に入らないなんて、とんでもない!!この子は私の理想です!!この子、私にください!!」
「・・・わかりました。ですが、この実験の趣旨は『他人のクローンへの憑依転生』です。ヨウコは他人じゃないですからね。実験の最後に、ヨウコをこの体に転生させましょう」
「ありがとうございます!!・・・フフフ。これで三十路の弛んだ体とはオサラバね」
「???ヨーコ、何か言いましたか?」
「あ、いえ、その・・・アハハハ」
佐藤洋子は思ったことを、すぐ口にしてしまう性格だった。