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暗礁

 ISCOへグラビサイエンスから幽子の実用化への目途が立ったとの報告があった。しかもテレパシー解析による霊子通信回路の素案と、反霊子変換のおまけつき。人類が必要としている二つの科学の礎を提示してきたのだ。職員たちは喜んだが、クワメ・アビオラCUEOは公表すべきか迷っていた。

「一滴で1000トン爆弾相当とはな・・・」

 QPでは、あくまでも理論上ということで実践はしていないとの話だ。いや、実践など簡単にできるはずがない。反物質が対消滅するのは物質全て。空気でさえも対消滅してしまうのだ。少なくとも地球上で反霊子の実験を出来る場所などほとんどない。

 では宇宙でならばどうだろうか?宇宙空間で何かの物質と反物質と対消滅してしまう可能性は、人為的でない限りかなり低い。

「・・・待てよ」

 反物質の実験ならば、もっと適した場所があるではないか。

 そもそも反物質が必要だと研究されるようになったのは、何のためなのか。

「ブラックホールエンジン」

 通常物質や重力子では出力が足りないために、反物質に活路を見出そうとしていたのではなかったか。

 

 3か月後、火星軌道上のラグランジュポイントに1台のブラックホールエンジンが運び込まれた。反霊子実験用として、200トンの小型ブラックホールを中心に据えた初期型のものだ。エネルギー供給用の熱核融合炉は取り外され、代わりに1Lほどの少量の霊子水タンクが備え付けられている。構造は至ってシンプルで、霊子水の水滴をエンジンの中央のブラックホールに向かって照射。ブラックホールに接触する寸前に重力子波を当て、反霊子化させブラックホールに吸収させる。ブラックホール相手に対消滅をするため、大量の重力子を放出させるという仕組みである。

 ISCOが加盟科学団体の協力を取り付けて実施する、人類初の実験だ。反物質の危険性は誰もが熟知しているため、実験はリモートによる無人で行われる。関係者は40万㎞(地球と月との距離は38万km)ほど離れ、安全性は十二分に確保した。

「3・・・2・・・1・・・実験開始」

 霊子水の水滴に重力波が照射される。

 次の瞬間、ブラックホールエンジンの一角から眩い光が発生、巨大な爆発となり、やがてエンジン全体を包み込んだ。星の誕生かと思えるほどの強烈な閃光は、地球からも観測できるほどだ。

光が消えた後、ブラックホールエンジンは跡形も無く消失していた。核であるブラックホールは存在しているかもしれないが、モニターには映っていない。無人での実験だったため、死傷者はいないが、明らかな実験失敗だ。関係者は即座に失敗の原因を探した。

 どうやら関係者による霊子水の認識が甘かったようだ。霊子水とは霊子が超純水に溶けて混ざっているわけではない。霊子が超純水に留まりやすいがために、単純に集まっているだけだったのだ。全ての物質を透過する霊子は、容易に超純水からも逃げていく。

 霊子水の一滴がエンジン中央に照射されたとき、霊子水タンクに留まろうとした霊子が糸のように霊子水タンクと霊子水滴を繋いでいたようだ。そのまま霊子水の一滴に重力波を照射し反霊子に変換したところ、導火線を伝うが如く霊子水タンク内も反霊子化してしまった。結果、霊子水タンクが丸ごと対消滅爆発を起こしたということだ。

 実用化への道のりは、まだまだ険しいことが明らかになった。



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