霊子エネルギー
世間では「クローン転生実験」の話題ばかりが注目されていたが、科学界では「霊子エネルギーの実用化」が沸騰していた。光よりも速い霊子通信の可能性。さらに超高速演算を可能とする「霊子コンピュータ」なる構想も噴出している。ブラックホールエンジンに端を発した「反霊子」の実用化の前に、元となる「霊子エネルギーの解析と応用化」が注目されているのだ。
「魂の緒を切り離し、オリジナルから射出し、クローンに憑依し、再生を確実にするための装置(Device for Detaching the Psyche-Soma Linking Thread, Projecting it from the Original, Possessing the Clone, and Ensuring Rebirth System)略称:DDPS-POPCER System」の開発により、霊子研究は進歩を続けていた。DDPS-POPCER Systemから重力波照射部を取り外し、「幽子(Spectron)」を持たない樹木などの植物に重力波を照射すると霊子のみを抽出することが可能となるからだ。宇宙よりも生物に溢れている地球上の方が霊子研究をしやすいこともあり、宇宙に出ることのできなかった科学者が霊子研究に注力した。人口と同様、地球上に住む科学者の方が宇宙にいる科学者よりも圧倒的に多い。さらに植物の霊子を抽出することに特化した「植物の霊子(Spiritron)を抽出する装置(Vegetal Spiritron Extraction Device通称:VSED)」が開発されたことにより、霊子研究の進捗は急激に加速していった。
霊子研究を統括する「霊子科学連合(Spiritron Sciences Consortium通称:SSC」は、科学者たちから上がってくる研究成果を吸い上げ知的財産として共有し発表した。
霊子(Spiritron)はダークマターであるためどんな物質でも透過してしまうが、霊子研究により霊子は水に留まりやすいことが発見されていた。逆にPTFEやPVDFなどの化学合成物質には霊子が留まりにくいことも判明している。これは化学合成物質が自然界に存在せず、また自然分解もされない、生物から最も遠い存在だからだとSSCは推測していた。
また流水よりも静水の方が霊子の留まりがよく、不純物が多いと霊子が不均一となり疎らになったり淀んだりするようだ。逆に言うと不純物の無い「超純水」に霊子を注入すると、瞬時に均一に広がるということだ。
この霊子の特性を利用すると、超純水を満たしたPTFEチューブの片方から霊子を注入すれば、どんなに離れていても瞬時に反対側に霊子が届くということになる。電気に於ける電線のような役割を果たすことが出来るのだ。PTFEチューブから超純水を出し入れすることで「ON/OFF」の切り替えも可能となる。霊子回路実現の第一歩が踏み出された。
霊子は生物の中だけではなく、地上、地中、空中、海中を問わず、あらゆる場所に存在した。ただし生物全体で占める霊子の割合を100とすると、その他に於ける霊子の量は0.1にも満たないほどではあるのだが。
霊子は生物の中で生産され、幽子(Spectron)の指令により霊子エネルギーとして消費される。
霊子回路として霊子エネルギーを実用化するには、幽子の働きを解析し人為的に幽子に指令を出させるか、あるいは人工幽子を作ることが必要不可欠となった。