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クローン枠

 14歳の体になったとはいえヴィクトールの仕事は変わらない。グループ全体5千万人の従業員を抱える、エクセルシオン・バイオメディカルの総帥の立場は変わらないのだ。

 地球と宇宙を頻繁に行き来するヴィクトールは、ISCOの本部「ネクサス」を訪れていた。新設された「クローンによる複製オペレーション連合ネットワーク(Clone-based Replication Operations Union Network:通称・CROUN)」の代表としての会合のためだ。わざわざ宇宙まで出張る必要はないのだが、エクセル・バイオの新たな研究施設とクローン工場である「クローニング・エクスプローラー (Cloning Explorer通称:冒険者)」が完成間近であり、視察も兼ねていた。

「少女のヴィクトールには、未だに慣れないな」

「髪が長いからでしょうか?すぐに慣れますよ。私には何の違和感もありません」

 ネクサスにあるクワメ・アビオラの私室で、ヴィクトールは紅茶を飲みながら寛いでいる。

「聞いたぞ。ヴィーチャのところでは100人のクローンテストメンバーを集めたそうだな?」

「建設中の『冒険者』はエクセル・バイオの所有です。社員がクローン作成テストメンバーだとしても、問題はないはずですが?」

「全員女性だと聞いているが?」

「可能性の問題です」

「ということは、男性のクローンは『失敗する可能性』が高いということか?」

「一概には言えません。公式では人間のクローンは私しか作っていないはずですから。それもまた検証が必要です」

「自分のところは『成功の可能性』が高いメンバーを集めて、『失敗する可能性』は自分のところ以外から集めたってことか・・・」

 CROUN出資の特典として「冒険者」のクローン作成の50人分をCROUNに割り当てた。希望者が殺到したものの、選別は各企業に委ねている。結果、50の枠の90%が男性だった。クワメ・アビオラもその中に入っている。

「可能性だけの話で男性を拒否するわけにはいかないでしょう?納得もしてもらえませんよ」

「確かにその通りだが・・・相変わらず人が悪い」

「人聞きの悪いことを言わないでください。クローン転生の可能性は低くても、臓器や部位の移植などには有効なはずです」

「・・・まあいい。1000体分のクローン設備に対し、CROUNの枠が50でエクセル・バイオが100。残りの枠はどうするつもりだ?」

「社員のものは一人につき10体のクローンを作る予定ですので、枠は余りませんよ」

「・・・何を企んでいる?」

「一言で言えば『他人のクローン体への転生の可能性』を探る実験ですね。選ばれたメンバーには事前に通告し、全員が納得しています。報酬に目が眩んだものもいるようですが」

「選ばれた100人が全員参加とは・・・」

「新婚にも拘らず、離婚して参加した者もいると聞いています。言っておきますが、強制ではありませんよ」

「・・・世も末だな」

「時代は確実に変わろうとしているのです。クワメはその『旗振り』のはずですが?」

「私ももう年だ。隠居が頭にちらついてくる」

「・・・弱音ですか?らしくないですね。そういうところも嫌いじゃありませんが」

 ヴィクトールは立ち上がり、正面で座っているクワメ・アビオラの膝の上に座った。

「おいおい・・・」

「さすがにこの成熟していない体では、やる(・・)気は起きないですね。我慢してもらいましょうか」

 ヴィクトールは肩越しに見上げながら、妖艶な笑みを浮かべた。顔を赤らめながら、息を飲むアビオラ。

「・・・そういえば」

「・・・何だ?」

「この体であなたとした(・・)場合、『未成年淫行』になるのですかね?私自身は50を超えているのですが」

「ぐっ・・・」

 アビオラは言葉を紡げない。

「そろそろ『宇宙人権宣言』のようなものをISCOはしなければならないかもしれませんね。クローン転生は人類の定義を変えかねませんから」

「・・・そうだな」



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