幽体離脱
14歳のクローン体へと転生して以来、ヴィクトールは寝るときによく夢を見るようになった。転生前は夢を見た記憶も定かではないのに。
特に鮮明に覚えている夢がある。自分が宙に浮いていて、ベッドで寝ている自分の姿を眺めている夢だ。一度や二度ではない。すでに何十回も同じ夢を見ていた。夢とは思えないほど鮮明な記憶。
「社長、それって『幽体離脱』しているんじゃないですか?」
「・・・まさか?」
「QPの所長がクローン転生実験の時に言ってましたよね?人間というのは夢を見ている時、稀に幽体離脱していることがあるって。正に『それ』なんじゃないんですか?」
「・・・・・・」
「いっそのことOSRCの科学主任に霊視鑑定を持つ霊能者を紹介してもらってはいかがですか?」
「・・・・・・」
「・・・社長?」
「・・・苦手なのです」
「・・・え?」
「苦手なのですよ。・・・幽霊とか心霊現象が」
「・・・冗談でしょう?」
「この体に転生してから、子供だった頃をよく思い出します。私は・・・幽霊が怖くて仕方がなかった。夜中に一人でトイレに行けなかったほどです」
「・・・意外」
「怪しげなものとか得体の知れないものに恐怖してしまうのです。大人になって克服したと思っていたのですが、ただの強がりだったのかもしれません」
「でも、現在では幽霊もオカルトも科学の一つですよ?社長自身が幽体離脱で転生しているのに、今更感満載なんですが」
「理屈じゃないのです。頭でわかっていても、怖いのです。身がすくんでしまうのです。恐怖症とはそういうものでしょう?」
「だからなんですか?社長が科学への造詣が深いのは」
「科学だけじゃありません。カタチが決まっているものは安心します。論理的なものや定量的なものもいいですね。数字は嘘をつかないですから」
「だったら、幽霊を論理的、定量的なものとして理解すればいいんじゃないですか?この際だから幽体離脱のやり方を覚えて、自分のモノにしてしまいなさい。自分が自由自在に幽霊になることができれば、幽霊を論理的、定量的に捉えられることに繋がるでしょう」
「・・・まるで母親のような口ぶりですね?」
「社長が子供みたいな弱音を吐くから、ですよ。まったく・・・見た目だけじゃなく精神的にも少女になったんですか?」
「・・・『人は見た目』ってことですね」
「・・・?」
「毎日鏡に映る少女の姿に、知らず知らずのうちに自分で少女を演じてしまったのでしょう。転生前に男物のスーツを着用しているうちに、男性のように振舞っていたように」
「やっと、社長らしくなりましたね」
「では幽体離脱を教えてもらいに行きましょうか」