社員食堂
ヴィクトール・クローネルはエクセルシオン・バイオメディカル・グループ全女性社員対し「自身のクローン作製希望の有無」を通達した。希望者の中から厳正な審査にて、クローン作成テストメンバーに選ばれるというものだ。枠は100人。しかしエクセル・バイオ・グループに所属する社員は全世界で5千万人、その内3千万人が女性社員だ。確立にして1/300,0000である。
エクセルシオン・バイオメディカル・ジャパン・グループは原料生産、加工、販売、飲食店、営業、輸送、開発など様々な業種に渡り、総従業員は60万人にも及ぶ。エクセルシオン・バイオメディカル・ジャパンの販売を司る東京支社では総務の若い女性が、東京で唯一クローン作成テストメンバーに選ばれた。
「おめでとう、佐藤さん!!あなた、当選したんですって?」
「係長、当選だなんて宝くじじゃないんですから」
「いいえ、佐藤さん。クローン作成テストメンバーだなんて、宝くじで1等当たるよりも凄いことよ!!」
「そ、そうでしょうか・・・」
「クローン作成って、アレだろ?転生して若返ることが出来るってヤツだろ?すげえな」
「うまく行けば永遠の命も可能って話じゃないか。羨ましいね」
「なんで女性限定なんだ?男性蔑視だ!!」
社員食堂の一角で男女数人が「佐藤洋子」の周りを囲んで祝福していた。しかし当の本人は戸惑いを隠せない。
「佐藤さん、この後はどうなるの?」
「え~と、1か月後に『本店』の『妖精』とかに出張だそうです。期間は1年だとか」
「うわぁ~、それは新婚の佐藤さんにとって、なかなか厳しいね」
「・・・それから出張に行くまでは『えっち』禁止って言われました」
「マジで!?旦那さんは?何て?」
「ケンちゃんには今夜話します。私も今日知らされたばかりなので・・・」
「そっか・・・それで佐藤さん、あまり元気がないのか」
「本店の『妖精』ってアレだろ?極東アジアの辺鄙なところの実験室だっけ?さすがにチョイチョイ帰ってくるわけにはいかねえよな」
「・・・出張中の1年間は帰宅どころか外出も禁止みたいです。例え家族でも外部との接触も禁止だとか・・・」
「うわぁ~禁止、禁止って、まるで監禁されるみたいじゃない」
「実質『監禁』なんでしょうね。だって本店の最新実験のテストメンバーに選ばれたんだから」
「ある程度、しょうがないんじゃない?報酬もいいんでしょ?」
「・・・はい。出張中の全費用は本店持ち。臨時ボーナスとして、今の私の年収20年分らしいです・・・」
「す、すげえ・・・。俺なら彼女捨てたって、出張に行くぜ!!」
「こら、アンタと一緒にしないの!!」
「・・・私、本当は結婚したら会社辞めるつもりだったんです。なのに・・・こんなことになるなんて・・・」
「佐藤さんの旦那、金持ちだもんな。臨時ボーナスも魅力ないか・・・」
彼女の泣きそうな顔に、周囲は掛ける言葉が見つからない。
「・・・私、決めました!!」
彼女を囲んだ面々は、彼女の次の言葉を待つ。
「テストメンバーを辞退して、ケンちゃんと幸せな毎日を過ごします!!」
佐藤洋子の晴れやかな笑顔があった。