CROUN
会見後、14歳の体へと転生したヴィクトールは地球には戻らずに、しばらくISCOの本部「ISCOネクサスセンター(ISCO Nexus Center)通称:ネクサス」のゲストルームに滞在していた。
エクセル・バイオは地球と月の間のラグランジュポイントに新たな研究施設とクローン工場「クローニング・エクスプローラー (Cloning Explorer通称:冒険者)」を建設中だ。このラグランジュポイントは、地球に最も近いラグランジュポイントとして宇宙交通の要となっていた。宇宙物流の大手セレス・ロジの物流拠点「セレスティア・ゲートウェイ (Celestia Gateway)通称:セレスGW」も「ネクサス」もここに位置している。
建設中のクローン工場は宇宙に於ける食肉事情を支えられるよう、数万頭の食肉動物のクローンを生産できる設備である。こちらには極秘に1,000人規模の人体クローン設備も兼ね備えていたのだが、先日の会見後に潮目が変わった。クローン転生への世間の批判が思ったよりも少なかったのである。特に富族層からの支持の声が大きかった。懸念された人権団体の反発も小さく、概ね好意的だ。多少の情報操作もあるようだが、「永遠の命の可能性」というのは人類共通の悲願なのかもしれない。
反響は大きく、エクセル・バイオにはクローン転生に対する問い合わせが殺到し、本社の回線がパンク寸前になるほどだった。
クローンの需要が高まることを確信したヴィクトールは、クローン転生事業をエクセル・バイオによる独占とせずに企業の垣根を越えた合資グループによる事業と位置付けた。エクセル・バイオを中心とした「クローンによる複製オペレーション連合ネットワーク(Clone-based Replication Operations Union Network通称:CROUN)」にはISCO加盟の名だたる企業グループが出資を決めている。宇宙物流大手「セレスティア・ロジスティックス・コーポレーション (Celestia Logistics Corporation通称:セレス・ロジ)」、宇宙軍需産業トップの「アストラル・テクノロジーズ (Astral Technologies Corporation通称:Aテック)」、ブラックホール事業を推進する「フュージョンエナジーテクノロジーズ(Fusion Energy Technologies通称:F・E)」、さらに中堅ながら量子力学機械製造を得意とする「クォンタム・エンジンリサーチ(Quantum Engine Research)」など。もちろんDDPS-POPCER Systemを開発した「グラビサイエンス・量子幻影研究所(GraviScience Quantum Phantom Research Institute)通称:QP」を擁するグラビサイエンスも協力団体としてCROUNの一員に名を連ねていた。
ヴィクトールはネクサス滞在中にCROUNに関する事案を次々と纏めていく。
1か月後、CROUNの代表となったヴィクトールは、1万人規模の人体クローン工場を10基建設する「CROUN計画」を発表した。