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クローン転生実験(4)

 QPの大ホールのモニターには、ヴィクトール・クローネルが入ったカプセルとは別のカプセルから金髪の少女が立ち上がる姿が映し出されている。大ホールは騒然としていた。頭では理解していたものの、モニターに映った出来事を素直に受け入れることが出来ていない者がほとんどだ。

 クワメ・アビオラでさえ、しばらく放心していた。クローン転生実験の詳細は聞いていた。カプセルが並んだ装置の片方にヴィクトールが入り、1分も経たないうちにもう片方のカプセルから少女が出てきた。単純に言えば、それだけの映像だ。強烈な光も轟音もない。人類初の実験であり、間違いなく成功した。にもかかわらず、淡々とした映像。予め別々の人間だったら、何の価値もない映像。これを「人類初のクローン転生実験成功の瞬間」と、どうやって捉えればいいのだろうか。

「あっけない」

 これが大ホールにいる全員の感情を表す一言だった。


 1時間ほどが経ち、大ホールに集まった科学者たちも落ち着いてきた。研究開発室で同席していたCAVAPの審査官の女性が壇上に立つ。

「研究開発室で行われた実験を検証した結果、不正は認められませんでした。実験が始まる前の少女の体からは、PGCデバイスにてVSC(Void Strand Code:空糸符)が検出されており、クローン体であることに間違いありません。また実験後のヴィクトール・クローネル氏の体から検出されたのもVSCであり、幽子(Spectron)はすべて空白子(Empteron)に置き換わっていました。以上の検証から、ヴィクトール・クローネル氏のクローン体への幽体移植は完了したと宣言します」

 場内から割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こる。歴史的偉業を見届けたという満足感もあるのだろう。QPに集まった者は大なり小なり何らかのカタチで科学を生業としている。科学の難しさや厳しさなど困難辛苦を知り、成功を認められた時の素晴らしさも十二分に知っている。故に目の前で見た偉業に、どれだけの頭脳と時間が費やされたかも知っていた。我が出来事のように喜ぶのも無理ないのである。

 歓声が冷めやまぬ中、金髪の少女が壇上に上がった。

 会場の誰もが彼女をスタンディングオベーションで迎える。

「みなさま・・・」

 少女の透き通るような声が響く。

「私は何者なのでしょうか?」

「「「は?」」」

 転生の不具合か?魂と肉体の乖離による記憶の混乱か?あるいは・・・科学者たちの憶測により、会場がどよめく。

「申し訳ありません。記憶が混乱しているわけでも、実験が失敗したわけでもないのです。私は正真正銘『ヴィクトール・クローネル』で間違いありません」

 困ったような笑顔の少女に、会場は安堵の溜息が漏れた。

「ここに居られるみなさまは、科学の造詣が深く、私が私であることに異存は無いはずです。戸籍やcivil registryなど書類上では、見た目と年齢とのギャップ以外に私であることに問題はないでしょう。指紋、声紋、虹彩などの個人認証も、クローンであるが故に相違ないはずです」

 ウンウンと頷く科学者たち。

「ですが・・・科学や法に詳しくない、私を知る一般の方は、現在の私を見てどう思うでしょうか?現在の私を『ヴィクトール・クローネル』だと認めてくれるでしょうか?」

「「「あ・・・」」」

「今回の私は自分のクローンへの転生でしたが、他人のクローンへの転生の可能性はゼロではありません。将来、他人のクローンへの転生ができるようになったとき、転生者は何者になるのでしょうか?」

 会場全体がざわめき出す。アビオラCUEOは眉間に指先を当て、苦悩の表情を浮かべていた。




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