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超心理学

 ヴィクトールは自身を襲った超能力者に、便宜上「灰色の魂核子(Psycho Nucleus-Gray)」という意味で「PNG」という名前を付けた。

 今回の「PNG」の解析に当たり、エクセル・バイオは新たな客員教授を招き入れた。超心理学の権威「ノヴァ・サイキック・アカデミー(Nova Psychic Academy)」の栄誉教授だ。

 超心理学(Parapsychology)は通常の心理学とは異なる分野で、超常現象や超感覚的な能力に関する研究を行う学問である。テレパシー(思考伝達)、透視能力、前知覚、念動力など、所謂「超能力」や、降霊術を含む霊的現象などが超心理学の研究対象だ。「幽子」「霊子」「反霊子」の発見により超常現象を科学的に証明しやすくなった超心理学は、正式な「科学」となった。

ノヴァ・サイキック・アカデミーは、2400年代における超心理学の中心的な研究機関である。彼らは超能力の発展、個人の潜在能力の最大限の引き出し、および超常現象の科学的解明に焦点を当てていた。アカデミーは優れた超心理学者を育て、新たなテクノロジーや実験的なアプローチを推進しており、未知の領域に挑戦している。

 エクセル・バイオが招いた栄誉教授は40代前半の若さながら「反霊子」による超能力の発現をテーマに、すでに数人の「超能力者 (psychic)」をアカデミーから排出していた。

「いや、サイキックと言っても、映画やSFに出てくる何でも破壊できるような『超人』ではありません。『透視能力 (Clairvoyance)』や『テレパシー (Telepathy)』などのESP(ExtraSensory Perception:超感覚的知覚)の発現がほとんどですね。『テレキネシス(telekinesis)』や『空中浮揚(levitate)』、『発火能力(Pyrokinesis)』などのPK(Psychokinesis:念力)の発現には、未だ至っておりませんよ」

 一口に超能力と言っても、大きく二種類に大別されている。

 ・ESP:超感覚的知覚(Extra Sensory Perception)と呼ばれる、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)や論理的な類推などの通常の知覚手段を用いずに、外界に関する情報を得る能力。

 ・PK:念力(Psychokinesis)と呼ばれる、意思の力だけで手を触れずに物体を動かす能力。

「聞くところによると『PNG』なる超能力者は『物体送信(asport)』を操ったとか。これはESPによる遠方の空間認知と、PKによる物体の移動を組み合わせた極めて特殊な能力です。私の知り得る限り、ここまで優れた超能力者はおりませんよ。私の生徒であったなら、どれだけの素質を開花できたのか計り知れません。惜しい、実に惜しい」

 栄誉教授は興奮気味に、一気に捲し立てる。ヴィクトールは無表情で栄誉教授を値踏みするかのように見つめていた。

「栄誉教授殿、『PNG』を解析することで、同じような能力を発現させることは可能ですか?」

「う~む・・・時間を掛ければ、ある程度は・・・」

「教授!!私にやらせてください!!」

 栄誉教授の言葉を遮るように口を挟んだのは、栄誉教授に同行してきていた若い小柄な女性だ。大きな丸メガネが似合い、知的な印象を醸し出していた。栄誉教授の紹介では、助教授の立場にあるという。

「教授はお忙しい方です。長期の出張はアカデミーも許可しないでしょう。その点、私なら独身ですし、身軽です。是非、私にやらせては貰えませんか?」

「いや、しかし・・・」

「私からも、お願いできませんか?」

「「総帥!?」」

 アカデミー内の話なので、本来ならばエクセル・バイオ側が口を挟むことではない。わかっていながらヴィクトールは口を出した。

「差し出がましいことではありますが、『PNG』の研究は未知の領域。やる気のある方にお任せしたいと思いまして」

 ヴィクトールが柔和な笑顔を見せる。

「そ、総帥がそうおっしゃるのであれば、こちらに異存はありませんが・・・まだまだ未熟者ですよ?」

「私もまだまだ未熟者ですが」

 ヴィクトールは自分の上司の言葉を遮る胆力を持つ、小柄な助教授を気に入っていた。



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