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超能力者

 彼は孤児だった。毎日のように暴力を振るわれていた彼が、自分の「力」に気が付いたのは物心ついた頃だ。

 彼は念じると手に持った小石を遠くに置くことが出来た。最初は近いところ。段々と遠くに置くことが出来るようになった。大人には秘密にしてた。

 歩いている人の足元に小石を置いて、転ばせたりした。いたずらだ。彼にとっては面白かったが、でもそれだけだ。何の役にも立たなかった。

 興味がわいて調べてみたら、「物体送信(asport)」という超能力だった。ESPによる遠方の空間認知とPKによる物体の移動を組み合わせた空間転移能力という、かなり高度な超能力ということだ。

しかし調べるうちに単純な「念動力(Psychokinesis)」の方が人生の役に立つのでは?と彼は思うようになった。念動力ならばスポーツに生かせる。球技に使えばあっという間にヒーローになれる。「物体送信(asport)」はスポーツには使えない。念動力を練習したが、そもそも物体送信をどうやっているのか自分でも良くわかっていないのだ。応用のしようがない。結局、彼にできるのは悪戯だけだった。

 いたずらを繰り返しているうちに、大人に見つかり、別の私設に入れられた。毎日変な機械を付けられて、実験させられた。痛みを伴うことも多く、彼は逃げ出した。

 浮浪者として生きていたが、相変わらず「力」は役に立たない。せめて逆に遠くのものを手元に引き寄せる「物体取り寄せ(apport)」だったら何でも盗めたのに。彼は荒んでいく。


 いつものように憂さ晴らしの悪戯を繰り返していたところ、黒ずくめの大人の男たちに捕まった。「殺される」かと彼は思ったが、黒ずくめの男たちは彼に優しかった。

 ある日、黒ずくめの男たちに小さな箱を渡され「あの車の中に転移させろ」と言われた。ガラスの中は初めてだったが、見えるところならどこでも空間転移できるようになっていたので、彼は引き受けた。彼が小さな箱を目的の車の運転席に転移させた後、車の運転席が爆発した。小さな箱は爆弾だった。彼は初めて人を殺した。震えが止まらなくなったが、黒ずくめの男たちが喜んで褒めてくれたので、彼も黒ずくめの仲間になった。

 彼は暗殺者になった。


 一度目の失敗は計算外だった。VTOLのコクピットに爆弾を転移させ、暗殺は成功したはずだった。300ヤードもの高さから炎上墜落して、命が助かるなど考えてもみなかったのである。科学の進歩と言ってしまえばそれまでだが、対象者を殺せなかったのだから失敗である。彼は万全を期すことにした。対象者の足元に確実に爆弾を移動させる。火炎は対策される可能性があるので、より殺傷力の高い金属片入りの爆弾にする。

 対象者の位置は組織からの情報でわかっていた。対象者は防弾ガラスに守られた最上階のプライベートルームに引きこもっているようだ。防弾ガラスはライフル銃どころかロケット弾ですら破壊できないらしい。しかし目視できれば爆弾を空間転移できる彼にとって、防弾ガラスなど意味はない。彼は「妖精」から5マイル離れた小高い丘の上から、居住棟の最上階を見張っていた。

 対象者が部屋の中にいるのは組織から渡されたスコープで確認している。「DMCスコープ」というGMCデバイスを応用したものだ。重力波により遮蔽物に関係なく人間の幽子や霊子を見えるようにするものだという。人物の特定はできないが、現在部屋に二人いるのは間違いない。あとは対象者が窓際に来るのを待つだけだ。

 やがて窓際に近づく人間をDMCスコープで確認した。彼はすぐに通常の光学スコープに切り替える。窓際に来たのが対象者なのか、顔を確認しなければならない。爆弾は殺傷力こそ高いが、部屋の人物を纏めて殺せるほどの威力はない。二度も失敗するわけにはいかないのだ。

 スコープに映った人物を確認する。車いすに乗った・・・対象者だ。


 彼は自身の「物体送信(asport)」で爆弾を対象者の足元に転移させた。光学スコープで部屋の様子を窺う。爆弾が爆発し、対象者は車椅子ごとバラバラになったようだ。首が飛んでいるから、間違いなく成功しただろう。

 任務遂行を確認した彼は、ゆっくりと立ち上がる。


 突然彼は意識を失って、その場に崩れ落ちた。




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