ヴィクトール暗殺計画(3)
「探求者の手(The Abyss Hand)」は世界中を奔走していた。エクセル・バイオの総帥からの「霊的存在を媒介できる本物の霊媒師と、本物の超能力者を探して頂きたく」との依頼を遂行するためだ。「探索者の手」にとって依頼遂行というのは顧客を満足させるものでなければならない。今回の顧客であるエクセル・バイオの総帥「ヴィクトール・クローネル」は、ここのところずっと辺境にある研究施設に籠もることが多いとの情報を得ている。この依頼も研究に関わることだろう。つまり、エクセル・バイオの研究に積極的に協力する人物を探せということだ。
幸いにして霊媒師は比較的容易に見つけることができた。霊媒師自身が科学に興味があり、自分の能力を科学的に解析したがっていたからだ。稀有な存在に早々に巡り合えたのは幸運だった。しかし問題は超能力者の方だ。
エクセル・バイオの研究に協力する超能力者。テレパシーとか、簡単な絵柄の透視ぐらいの能力者ならすぐに見つかるだろう。しかしエクセル・バイオのご所望は「本物」である。「本物」とは超一流のことだ。超一流の超能力者のほとんどは裏社会で暗躍している。正体不明とされている人物がほとんどだが、「探索者の手」ならば何人かコンタクトをとることは可能である。しかし彼らがエクセル・バイオの研究に協力するわけがない。どんなに金を積んだところで、超一流の超能力者が一介の企業のモルモットになどに、死んでもならないだろう。
「死んでも・・・?」
「いっそのこと・・・」
「探索者の手」にとって、依頼の不履行は絶対に許されない。どんな手を使っても、依頼を遂行させることが彼らの「死命」なのだ。
・・・そう。例え依頼者を死に至らしめるとしても。
「探索者の手」は超一流の超能力者に「ヴィクトール・クローネルの暗殺」を依頼した。
エクセル・バイオの総帥が超一流の超能力者に殺されるぐらいの小物であれば、どのみち超一流の超能力者の協力など得られるわけがないのだ。逆にエクセル・バイオが超一流の超能力者を捕らえられるのであれば、彼らは総帥の命を狙った者を煮るなり焼くなり好きにするだろう。協力よりも、人道を外れた有意義な研究ができるはずだ。
エクセル・バイオが超一流の超能力者を殺してしまったら?
エクセル・バイオならば死体どころか肉片でも有意義な研究にするに違いない。レプリカやらクローンだのを研究しているのだから。どう転んでも依頼者は満足するはずだ。超一流の超能力者を捕らえれば上出来。依頼者が超一流の超能力者を殺してしまっても「探せ」という依頼は遂行したことになる。
ではヴィクトールが殺されてしまったら?
身の程知らずな依頼をしてしまったのだ、と依頼者にも満足してもらえるだろう。