ヴィクトール暗殺計画(2)
VTOLの爆破墜落事故により、ヴィクトールと同行した4名は重傷を負ったものの命に別状はなかった。VTOLのキャビンにはアストロテック社の「アストリウム99」を使用していたので、墜落の衝撃が少なかったからである。エクセル・バイオは軍需企業Aテックと業務提携していた。プライベートVTOLもAテックからの試供品である。「アストリウム99」は重力線を99%カットする効果を持つ。つまり1Gの重力を1%まで軽減して、0.01Gでゆっくりと下降したのである。ヴィクトールを含む同行者の怪我は、墜落後の炎上による火傷だった。とはいえコクピットが爆破された操縦士2名は死亡してしまったのだが。
「おやおや。納品にISCOのCUEOアビオラ様が直々にいらっしゃるとは、夢にも思いませんでした」
ヴィクトールは「妖精」最上階の私室に、アビオラCUEOを招き入れた。私室にはヴィクトールとアビオラの二人だけである。アビオラを迎えたヴィクトールは車椅子に乗っていた。
「・・・寿命が10年は縮んだぞ。命があって何よりだ。だが、無事ではないようだな」
「はい。下半身が火傷により不随になりました。医師からは『激しい運動はするな』と言われているので、今日は残念ながらデキませんね。フフフ・・・」
「そ、そういう意味で来たのではない!!私はヴィーチャの身を案じてだな、その・・・」
「心配してくれたのですね。慌てるあなたは嫌いじゃないですよ」
ヴィクトールが優雅な笑みを浮かべると、アビオラは照れたように目を逸らした。
「・・・どこのどいつだ?ヴィーチャを狙ったのは」
「・・・さあ?命を狙われるのは、初めてではありませんから」
「警備は万全ではなかったのか?」
「ここ『妖精』の半径2マイルには不審者はいなかったはずです。こう見えて『妖精』の危機管理システムは最新鋭ですから。おそらく賊は3マイル以上離れたところから攻撃したのでしょうね」
「バカなことを言うな!3マイル先からピンポイントでVTOLのコクピットを狙撃したのか?賊はゴ〇ゴ13か!?」
「狙撃ではありませんよ。爆弾が投げ込まれたようです。事故検証により判明してます」
「爆弾が投げ込まれただと?どういう意味だ?」
「どういう意味かと問われても、状況から『投げ込まれた』としかいいようがありませんね」
「・・・お前、何か掴んでいるな?」
「フフフ・・・面白くなってきましたね」
「ちっ、悪い顔しやがって」
「ISCOのCUEO様は、私に構っているヒマなどないはずです。早々に宇宙にお帰りなさい」
「・・・俺を追い出したいのか?」
笑みを浮かべて、ヴィクトールはアビオラに近づく。
「はい。クワメはうるさくて邪魔です」
ヴィクトールはアビオラに濃厚なキスをした。




