ヴィクトール暗殺計画(1)
降霊術解析の直後、ヴィクトールは太平洋の南海のリゾート地の一角に聳えるエクセル・バイオの本社にグループ全役員を招集し、緊急役員会議を開催した。集められた役員は100名以上。会議とはいっても基本的にはヴィクトールの指令を各役員が受諾するだけであり、議論というものはほとんどない。
今回の指令は「エクセルシオン・バイオメディカル・グループ全社員のPSCの解析、及び登録」であった。エクセル・バイオ・グループに所属する社員は、全世界で5千万人にも及ぶ。プライバシーに関わることだけに一応社員側にも拒否権はあるが、拒否する社員は一人もいない。PSCの解析・登録するだけで社員には特別報酬が出るのだが、社員が働きやすい環境を作っているエクセル・バイオでは総帥に対する崇拝にも近い感情が存在しているのだ。社員たちから会社やグループに対する不満や愚痴は皆無に等しかった。
ISCO加盟のエクセル・バイオであれば、PSC解析ができる高性能GMCデバイスの大量調達も可能である。1ヶ月もしないうちに全社員のPSCが解析され、詳細が提出されるだろう。
最近のヴィクトールはユーラシア大陸の北端のチュクチ半島にある「妖精」を拠点として行動している。念願の「クローン事業」の具体化が急速に進んでいるからだ。交通の便は悪いものの、研究施設として秘密裏に研究を続けるためには「妖精」は都合がいい。とはいえ「クローン事業」の研究を本格化させるには、すでに「妖精」も手狭になりつつある。
エクセル・バイオとしては新たな研究施設とクローン工場を、宇宙に建設することを計画中だった。ISCOが実質管理している宇宙の方が、地球上の辺境よりも建設コストも維持コストも実は安く済むのである。宇宙に於ける食糧事情を鑑みても、クローン肉を製造販売しているエクセル・バイオの宇宙進出は需要が多い。宇宙であれば施設の増設も土地を必要としない地上よりも容易であるし、何よりもISCOから強く要請されている案件でもあった。もっともISCO加盟企業でありながら宇宙に設備を持たない大企業はエクセル・バイオぐらいなので、ISCOの要請も無理ないことであった。決してクワメ・アビオラの私情によるごり押しではない。
ヴィクトールはプライベートVTOLで本社から「妖精」へと向かっていた。同行しているのは秘書官と書記官、そして2名のボディガードの4名のみである。VTOLが「妖精」内に設置された滑走路への着陸態勢を取るために、空中で静止した瞬間だった。
ズガーンッ!!
派手な爆破音と共にVTOLのコクピットが炎に包まれた。空中停止の状態からバランスを崩したVTOLはゆっくりと墜落する。やがて滑走路に落ちたVTOLは爆発炎上した。