降霊術解析(1)
「総帥、今回の解析ではかなりの新発見がありました。何から報告すればよいのかわからないほどです」
OSRC(オカルトサイエンスリサーチセンター:Occult Science Research Center)の科学主任が声を弾ませた。彼はここ数か月の間ずっとエクセル・バイオ出向中で、ヴィクトール・クローネル総帥の実験や研究解析の中心人物でもある。エクセル・バイオの社員と間違われても、異論が出ないほどだ。OSRCはISCO加盟研究団体であり、若手の実力者数名をTPRFの構成員として出向させていた。今回の降霊術の解析にも3名ほど参加している。OSRCの科学主任は図らずも今回の降霊術の解析プロジェクトのリーダーとなっていた。
「時系列に従って報告してください」
冷ややかな声で総帥が言う。
「しょ、承知いたしました。・・・ではまず霊媒師の解析結果から報告しましょう」
「妖精」の地階、50人ほどが着席できる会議室の大きなモニターに解析グラフが表示された。
「至って普通の人間です。脈拍、心電図、脳波とも特筆すべきことはありませんでした。一方の魂糸符・・・失礼。『PSC』の配列に特記することはありません。強いて言えば『PN-D型』が多くみられたことぐらいでしょうか。霊媒師の『PN-D型』は128個のうち81個にも及びます。ちなみに『反霊子(Anti-Spiritron)』は検出されていません」
PN-D型は幽子が4つある『魂核子』である。A型は1つ、B型は2つ、C型は3つの幽子を持っている。現状、それ以外のPNは発見されていなかった。
「時系列順で進めますと、総帥の解析結果となります。PSCは『1個人に対し1種類のPSCしか検出されない』ということが定説となっていましたが、覆すことになりそうです」
会議室内がわずかにどよめく。ヴィクトールの片眉がピクリと上がり、科学主任に続きを促した。
「・・・はい、続けます。総帥の首筋から肩にかけたラインを計測したGMCデバイスの解析結果によると、総帥のPSCとは全く別の配列を持つPSCが検出されました。スピリチュアル学からの見解を申しますと、恐らくこのPSCは総帥の守護霊のものと推測します」
「私の守護霊が『リオネル初代様』ということですか」
「はい。守護霊は祖先とか血縁者が多いですから、可能性はかなり高いですね。必要であれば、霊子鑑定を持つ霊能者を紹介いたしますが?」
「・・・その話は後ほど検討しましょう。まずは報告を続けてください」
「承知いたしました。こちらの、一応『初代様の』と申しておきます。初代様のPSCの特徴ですが、霊子の働きが活発ではありません。総帥との霊子交換も為されていないようなので、総帥への影響は無いとは申しませんが、軽微であると推測します」
「ふむ・・・」
ヴィクトールは自身の右肩をちらりと見やる。霊視鑑定を持っていたら、リオネルの霊が視えるのだろうか。すぐにヴィクトールはOSRCの科学主任の方を向く。
「続けてください」
「承知いたしました」