クローン実験(2)
ヴィクトール・クローネルはクローン体の幽子に似た透明な玉を「空白子(Empteron)」と名付けた。同時に魂糸符と魂核子に似たものを、それぞれ「空糸符(Void Strand Code)」「空核子(Void Nucleus)」とも名付けている。
「さらにクローン体の空糸符と私の魂糸符の配列が、同じだったことも付け加えます。これらをISCOで発表するといいでしょう。我がエクセル・バイオもISCO加盟企業です。ISCOのルールには従いますよ」
優雅な笑みを浮かべるヴィクトールが座っているのは、ISCO本部「ネクサス」内にあるクワメ・アビオラの私室のソファー。今日もヴィクトールはドレスを着た美しい女性の姿だ。
「できるわけないだろ!!何をバカなことを言ってるんだ!!」
「・・・怒鳴ることないじゃないですか」
「どうやって経緯を説明するつもりだ!?ヴィーチャのクローンを泣くほど苛めてわかりました、とでも言うのか?!人形に暴力振るうだけで大騒ぎするような連中がいるんだぞ!!血が通い生きている、見た目が人間のクローンを虐待して得た結果だなんて言ったら、吊し上げを喰らうに決まってる!!」
「再現実験でエビデンスを示せば、問題ないでしょう?クローンなら私が提供しますから」
「バ、バカなことを言うな!!ヴィーチャのクローンを提供するだと!?お前のクローンでの実験なんて、あんなことやこんなことが出来てしまうだろ!!世の中には寝ている女がいいって『変態』もいるんだぞ!!」
「・・・誰が私自身のクローンを提供するって、言いましたか?動物のクローンです。・・・バカなことを言っているクワメの発想の方が『変態』ですね」
「・・・は?」
みるみるうちに赤くなるアビオラCUEOは、頭を抱えてソファーに蹲ってしまう。妖艶な笑みを携えて、ヴィクトールはアビオラの隣に座った。
「嫌いじゃないですよ。その子供じみたところも」
「笑いたければ笑え。この魔性の女め」
「あら。私がドレスを着るまで『男』だと思っていた人には言われたくない台詞ですね」
「~~~~~~~」
「確か『私にハニートラップは効かんよ』でしたか。どの口が言うんでしょう?」
ギロリとアビオラが睨むが、恥ずかしさの赤ら顔では威圧の欠片も無い。ヴィクトールはアビオラの頭を優しく撫でる。
「あなたも物好きですね。こんな貧相な体に惚れるなんて」
「その貧相な体をスーパーモデルに例えたのは、ヴィーチャ、お前だぞ」
「あら。スーパーモデルより、希少価値は高いですけど?」
「・・・お前には敵わん」
「アビオラCUEO様の敗北宣言なんて、私より希少価値が高いかもしれませんね」
「何とでも言え」
「・・・そういうところも、嫌いじゃありません」
ヴィクトールはするするとドレスを脱いだ。