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最適解

 ISCOはゴーストマター解析のための人体実験を解禁した。GMCデバイスが進化して、人体に悪影響を及ばさないようになったからである。どんなに動物実験を繰り返しても、真の意味で「幽子」と「霊子」のことは解明できない。人間の魂と動物とは根本的に違うのだ。仮に同じだったとしても、人体実験をしなければわかるはずもない。

 ただし地球上での人体実験は、各国家の定めや各々の倫理に付随するものである。重力波技術とSSDカメラを地球に渡したのだから、地球上でGMCデバイスに似たものを開発していても不思議ではない。そのためかゴーストマターの研究は、地球上の国家や研究機関の方が進んでいるようだった。すでに「クローンには幽子がない」との不確定情報も飛び込んでいる。クローン技術最高峰の企業はISCOに加盟しているが、地球上で実験をしている限りISCOが関与する問題ではなかった。


 「グラビサイエンス・量子幻影研究所(GraviScience Quantum Phantom Research Institute)通称:QP」はグラビサイエンスと未来エネルギー研究連盟の合同で設立した、ゴーストマターの研究施設である。

 一人の科学者が指先を小型のGMCデバイスに入れて、ゴーストマターの撮影に励んでいた。白い煙のような雲のようなものの撮影には成功している。これが魂だ。彼はさらに細部まで克明に撮影しようと実験を続けている。重力波の周波数、重力子線の量、照射時間、これらを微妙に変えつつ、無限大とも言える組み合わせからの最適解を探していた。

 「やあ『QPの申し子』君。成果はどうだい?」

 QPの休憩室で脱力していた科学者に、年配の男が声をかける。

 「ダメですね。それから所長、『QPの申し子』って言うのは、いい加減やめてください。私もいい年なんですから」

 「そうはいうけど、新人で新設されたQPに入ってきたのはキミだよ?QPの歴史はキミと共にあるんだ。『申し子』なんてピッタリじゃないか」

 「すでに私より若い科学者の方が多いんですから、恥ずかしいですよ」

 「だったら無限の組み合わせを一つずつ試すなんて、若いのに任せればいいじゃないか。キミも主任になったんだし」

 「こんな成果のなかなか出ない地味な実験、私しかやりませんよ」

 「しょうがないなぁ。じゃあ頑張ってるキミに『これ』をあげよう」

 所長は小さなメモを科学者に渡した。メモには周波数と重力子線量、照射時間が書いてある。

 「ボクの見立てでは、その辺りが怪しいと踏んでるんだ。試してみてよ」

 「え?」

 所長は毎日上がっている実験失敗のデータの中から、最適解を導き出していたのだ。将来の科学界を背負うとまで言われた所長は個人的な成果は出していなかったが、このような効果的なサポートを続けている。


 翌日、白い靄のような魂が、細い糸が絡み合った綿のような存在であることがGMCデバイスにより確認された。




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