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妖精(2)

 エクセル・バイオの「極東高度研究所(Far East Advanced Research Institute)通称:妖精」の南端に立つ高級マンションのような居住棟。最上階は総帥のプライベートルームになっているのだが、一角に応接室がある。男性用のスーツ姿のヴィクトール・クローネルが中央のソファーに足を組んで座り、テーブルを挟んだ正面にはOSRCの科学主任である妙齢の男性と「妖精」の若い女性所長が並んで座っている。書記官の若い男性は応接室の隅にあるテーブルに着き、入り口の両サイドには総帥の女性秘書官が並んで立っていた。応接室は質素で、観賞用の草木も無ければ絵画や彫刻、調度品もない。テーブルとソファーのみである。

 「ここへ来て驚いたのですが、若い方ばかりですね」

 OSRCの科学主任が重苦しい空気を変えるように言う。総帥に呼ばれて最後に応接室へと来たのだが、ソファーに腰かけてからしばらく誰も口を開かなかったのだ。書記官ですら音を立てずにタッチパネルを操作している。

 「若いと仰っていただき、ありがとうございます。ですが、こう見えてみんな若くはないんですよ」

 「妖精」の女性所長が笑顔で言う。続いて総帥が静かに口を開いた。

 「我が社ではファストエイジング研究をしている。アンチエイジングは意図せずに出来たものです」

 ・ファストエイジング:クローン体を通常よりも早く成体にする育成技術である。

 「社長、アンチエイジングも商売になるって、前から言ってるでしょ?前向きに検討しましょうよ」

 「所長。この場では『総帥』とお呼びください」

 「あら、こんな雑談も会議録にしてるの?書記官君も真面目ねぇ~。社長とは長い付き合いだから、ついつい『社長』って呼んじゃうのよね」

 「好きに呼んでください」

 「社長もこう言ってるんだから、固いこと言いっこなし、ね。書記官君」

 ギロリと所長を一睨みして、書記官は無言でパソコンを弄り始める。科学主任は自分の言葉からの意外な展開に、呆気に取られていた。


 「本題に入りましょう。主任。GMCデバイスでの結果を報告してください」

 総帥の言葉に、OSRCの科学主任は背筋を伸ばして自分のパソコンを開く。総帥と所長の前のテーブルからモニターがせり出した。

 「総帥の予測通り、クローン体からは一切の幽子が検出されませんでした。一方のレプリカ体ですが、こちらは幽子があるものが多いですね。エクセル・バイオからの資料と照らし合わせたところ、やはりコピー率が高いレプリカほど幽子が少ない傾向にあります」

 「社長の仰る通り、母体からの影響は小さくないようですね」


 エクセル・バイオでは一般的なクローンを、明確な定義により二種類に分けていた。

 ・クローン:胚生成クローニング(Embryo Cloning)により形成したクローンの胚を、体外培養カプセルで成体まで育成したもののみを言う。

 ・レプリカ:胚生成クローニング(Embryo Cloning)により形成したクローンの胚を、母体の子宮に着床させ、妊娠出産させたものを言う。


 「ここまで予想通りというのは、あまり歓迎しませんね」

 総帥は不服そうに眉をひそめた。しばらく沈黙が続いたが、おもむろに秘書の一人を呼びつけた。

 「例のサラブレットのオーナーに『あなたのサラブレットのクローンは走ることはない』と伝えてくれ。それから今後の対応の希望を伺っておくように」

 「畏まりました」

 「所長、主任、私の1号クローンを幽子、霊子だけでなく、遺伝子レベルまで徹底的に調べてください。必要なら解剖しても構いません。オリジナルと比べたいのであれば、私はどんなことでも協力します。すぐに準備を」

 「しゃ、社長!!」

 所長が抗議の声を上げた。

 「これは『命令』です。異論は認めません」

 「・・・はい。承知しました」



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