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ヴィクトール再来(1)

 グラビサイエンスからの嘆願により、ISCOは「地球圏での重力子研究の解禁」を発表した。ただしブラックホールを扱う研究は禁止のままだ。同時に重力波による新たな可能性も示唆した。重力波を電磁波のように様々な分野で利用できるように研究しろ、ということだ。これにより地球圏の研究団体が活気づいた。

 いち早く結果を出したのが「量子重力学連合(Quantum Gravity Union)通称:QGU」だ。彼らはクォンタム・エンジンリサーチ(Quantum Engine Research)社と共同研究で「重力波発生装置」を完成させ、情報もISCOに提供した。遅れてグラビサイエンスも「重力波発生装置」を完成させている。


 重力波はすぐに通信分野に応用された。重力波は物質を透過するため、通信において障害物や大気などの影響を受けにくいのである。スピードは光速と変わらないため、即座に地球圏外の研究施設で採用された。さらに地球上の各地各企業から、重力波通信の問い合わせがISCOに殺到した。重力波通信は障害物の多い地球上の方が重宝するからである。しかしISCOは地球上からの全ての問い合わせに「No」を突き付けた。これは重力波や元となる重力子が、地球に対してどのような影響を及ぼすか不明だったからである。ただでさえ地球に墜落したブラックホールは未だに地下へ向けて沈下し続けている。地球環境は年々悪化の一途を辿っており、現状維持すら困難な状況であった。ISCOは宇宙に於いて国家をも超える絶対的な存在となっていたが、根底にあるのは地球を守ることである。


 ISCOの本部「ISCOネクサスセンター(ISCO Nexus Center)通称:ネクサス」に地球からの直行シャトルが到着した。「エクセル・バイオ」のロゴの直行シャトル。アポは来ていないが、エクセル・バイオの総帥「ヴィクトール・クローネル」が乗っているのは間違いない。お忍びというには堂々過ぎる登場に、緊急案件だとISCOのアビオラCUEOは判断した。

 出迎えたCUEOの前に現れたのは、長身金髪ドレス姿の美しい女性。顔立ちが総帥に似ていることから、姉か妹か?しかしエクセル・バイオの役員名簿に、ヴィクトール以外のクローネル家の名前は存在していない。

 不審に思いながらもエクセル・バイオの人間であることは間違いない女性に、アビオラは右手を出しながら挨拶をする。

 「はじめまして、レディ。私はISCOの最高統一責任者である『クワメ・アビオラ』です」

 「・・・アビオラCUEO、初めてではありませんよ?」

 金髪の女性の声を聞き、アビオラはぎょっとした。聞き覚えのある声だったからである。

 「なんと・・・総帥なのか?いや、しかし・・・」

 「私は産まれたときから正真正銘の『女』です。名前は親が勝手につけたモノ。まあ、親としては私が男の方が良かったみたいですけど」

 確かにクローネル総帥は、自分で「男」だとは言っていない。「ヴィクトール」は男の名前だが、女に名づけてはいけないという法律もない。

 「コホン、失礼した。しかしドレスを着る必要があるのかね?」

 「ここは重力があるので、スカートが捲れ上がる心配がありません。それに・・・」

 「それに?」

 アビオラCUEOは怪訝な顔をした。

 「これから私の願いを聞いてもらうのに『女』を強調した方が、あなたには効果的だと思いまして」

 総帥の笑顔に、アビオラは軽い頭痛と眩暈を感じるのであった。




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