Fox-Veil(12)
「キューピー・ナサニエルは敵側の人間になったって言うことだよ」
驚愕の事実にリリーは口を両手で抑えながらキューピーを見る。キューピーの顔は青ざめ、震える唇を辛うじて開いた。
「・・・先輩は知ってたんですか?」
「いや、ヴィクトールさんの受け売りだよ。ボクはそこまで人間観察力は高くないし。ヴィクトールさんはこうなることを予想していたみたいだ」
「ヴィクトール様はキューピーさんが敵だとわかった上で、ナカディヤをキューピーさんに任せようとしたってことですか?」
「そういうこと。敵がナカディヤを破壊しようとするのであれば、ボクもヴィクトールさんもキューピーを殺してでも、絶対に阻止してみせる!!でも申し子君はナカディヤを壊したいわけじゃあないんだろ?」
「と、当然です!!私だって、ナカディヤを究極の霊子コンピューターとして覚醒させたいんです!!」
「その上で、ナカディヤを味方に引き摺り込もうって算段なんだろ?」
キューピーは黙って頷く。
「ボクは反対したよ。猛反対だ!!ナカディヤが敵の手に落ちるなんて、考えられない!!」
カインの両手はぎゅっと握られ、わなわなと震えていた。
「でもね、ヴィクトールさんがボクに言ったんだ。『敵の手であろうが、ナカディヤが進化するのであれば、広い視野で科学界を見れば悪いことじゃない。それでナカディヤが敵の手に渡るのであれば、是非もなし。その時は何百年かけようとナカディヤを越えるモノを作ればいい』って。科学者としてのボクは震えたよ。あの人の目はいったい何を見据えてるんだろうね?」
リリーもキューピーも、口を半開きで唖然としている。
「確かにね、ワクワクしているボクもいるんだよ。ボクの知らない科学がナカディヤに投入されて、どんな進化を遂げるのか?科学者として期待せずにはいられない」
カインは遠くを見上げた。
「ボクは開き直ることにしたよ。なんだかんだ言っても、ナカディヤはヴィクトールさんの所有物だし、ヴィクトールさんが決めたことなら従うしかないんだよね・・・」
カインはカッとキューピーを見据える。
「だから、申し子君には半端なことはしてほしくない。やるなら最高のナカディヤに仕上げてほしい!!」
「・・・どうなっても知りませんよ?」
キューピーはカインの視線を逸らすことなく、笑みを浮かべながら受け止めた。
「こっちだって、ただ手をこまねいているわけじゃあない。ナカディヤを奪われたら、ボクが奪い返す。・・・どんな手を使ってもね」
「受けて立ちますよ、カイン先輩」