Fox-Veil(11)
「それでは行ってきます」
「3日分の食料と寝袋はちゃんと持ったかい?ナカディヤの中にはベッドは無いからね。あまり広くないけど、持ち込める者は片っ端から持ってっていいから」
「カイン先輩は『お母さん』ですか?子供じゃないんだから、3日ぐらい大丈夫ですよ」
キューピーはナカディヤに霊波発生装置「Tria Lucida(トリア・ルキダ=三つの輝き)」を作らせ自己進化させるために、ナカディヤの中に閉じ籠ることとなった。言わば「缶詰」である。
「だいたいQPで研究室に籠るのなんか、一週間はザラでしたからね。あの頃の先輩は容赦なく監禁してたじゃないですか」
QPとは「グラビサイエンス・量子幻影研究所(GraviScience Quantum Phantom Research Institute)」のことで、カインがQPの所長だった頃の先輩後輩の間柄である。
「どうせカイン先輩が気にしてるのは、私じゃなくてナカディヤの方でしょ?」
「そりゃあ、申し子君の悪癖とかがナカディヤに影響したら、ボクが困るじゃないか」
「否定せんのかぃ!!っていうか、私の悪癖知ってるんですか?」
「いや、知らんけど」
「ぷっ・・・あははは」
カインとキューピーのやり取りに、見送りに来ていたリリーが思わず噴き出した。
「二人とも昔からこんな漫才みたいな会話してたんですか?」
「無理無理。昔の申し子君は堅物ポッチャリ丸眼鏡だったからね。仕事以外の会話なんかしたことなかったよ」
「ポッチャリ丸眼鏡は関係ないでしょ。堅物は否定しないですけどね」
「クスクスクス・・・それにしてもキューピーさん、変わりましたね」
「そうだね。別人のように明るくなったよ。『あ、軽く』と言った方がいいかな?」
「オヤジギャグか!!先輩センスなさすぎ!!」
「いやぁ、ホントに申し子君は変わったよ。最初は違和感あったけど、最近のボクはいい意味で捉えることにしてるよ。たまに見える腹黒さが、いいアクセントだよね」
「は、腹黒さ?」
「キミが何をきっかけにして変わったのか。例えそれが敵の策略だったとしても、キミにとっていい方向なら、それはそれでいいんじゃないかなって思うようにしてるんだ」
「・・・・・・」
「キミはクソ真面目で『真面目しか取り柄が無い』なんて自分を卑下してたじゃないか。ボクの知らない知識も蓄えられたみたいだし、会話も上手になって、キミにとってはいいことづくめだろう?」
「え?カイン先生・・・どういう意味ですか?」
「あ~、本人を前にして言うのもなんだけどね」
キューピーの顔色が変わり、ゴクリと生唾を呑む。
「キューピー・ナサニエルは敵側の人間になったって言うことだよ」