Fox-Veil(9)
ゼーは守るべき者があるが故に強い。であるならば、ゼーを守るのは自分でありたい。ゼーを守るためにも、レイラはある懸念をゼーに伝えようと決意する。
「ねぇ・・・ゼー姉ちゃん」
「何だい?」
「局長って誰のことだかわかる?」
「・・・局長?」
「キューピーが言ってたんだよ。『局長にいい報告ができるよ』って」
「局長に?いい報告?」
レイラはナハトエンゲルでの戦闘と共に、キューピーとのテレパシーの内容を掻い摘んで話した。
「誰だろう?局長なんて呼ばれているのは、エクセル・バイオの人間にはいないと思う」
「・・・だよね。私、何かイヤな予感がするんだ。明確な根拠はないんだけど・・・」
「わかった!キューピーにブラキオを付けよう。錬金術研究所でレイラの次に頼りになるのはアイツだからな。妙な真似をしたら、すぐに拘束するように言っておくよ」
「え?」
キューピーはカインの後輩であり、信頼できる人物のはずだ。ナカディヤの開発に携わり、今や錬金術研究所の副官と言ってもいいほどの実績と所員の人望を兼ね備えたのがキューピーなのだ。錬金術研究所の内情など知らないレイラがキューピーを疑うのならば、最低でも理由ぐらいは問い正すはずである。なのにゼーは理由も聞かずにレイラの疑念に賛同するとは・・・?
「アタシもモヤッとしてたんだよ。キューピーの違和感には気づいていたんだ」
キューピーは敵の襲撃に遭い、レイラがいなければ命を落としていても不思議じゃない。命があったとして、最低でも敵の手には落ちていただろう。
「キューピーの変化は、死のトラウマからの性格破綻だと見ていた。カイン先生も同じ意見だったな。性格が変わるなんて二重人格のアタシなら、むしろ他の誰よりも納得できる。それでもモヤッとしてたんだよ。レイラは未来予知が発現したかな?」
「ゼー姉ちゃん、気を付けて」
「・・・アタシかい?」
「うん。だってゼー姉ちゃんは瞬間移動を身に着けてるから。私がキューピーだったら、次に狙うのはゼー姉ちゃんを味方に引き刷り込むことだと思うから」
レイラに忠告されたゼーが、満面の笑みを浮かべた。
「・・・嬉しいね。レイラもちゃんと周囲のことを気遣えるようになったんだね。それとも予知かい?」
「茶化さないで!私はゼー姉ちゃんが心配なの!」
「レイラらしいけど、アタシはアンタが心配だよ」
「私は大丈夫」
「それそれ。その自信が過信になってるんじゃないか?」
「!!」
レイラはナハトエンゲルでの戦闘中に、高重力波砲で撃たれた時のことを思い出す。あのピンチも過信から招いたものではなかったか。とはいえあのピンチがナハトエンゲルでの瞬間移動発言に繋がったのだから、あながち失敗ではないのだが。
「怪我の功名なんて、そうあるもんじゃない。イチかバチかなんて、弱いヤツの戦略だ。レイラはちゃんと強いんだから、油断だけはするなよ」
「う・・・」
ゼーには全て見透かされている。やはりこのヒトには敵わない。だからこそ。
「ゼー姉ちゃんは、私が守る」