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西暦2222年・夏(4)



 南海のリゾート地の一角に聳える、エクセルシオン・バイオメディカル(Excelsion Biomedical)の本社の社長室。

 リオネル・クローネルは国際素粒子研究機関(IPRI)が主催の学会の中継を、食い入るように見ている。ナカオカ博士の質疑応答が始まっていた。

 『幽子の実用ということですが、博士は具体的に幽子がどのように活用されると、お思いですか?』

 『ふむ・・・実用化の理論さえも無いのに、気が早い質問だな。まあ、あくまでも私の推測ではあるが・・・人間の生死を分かつモノになるかもな』

 『と、言いますと?』

 『現在、人間の生死判断は脳死や心停止など、肉体的な要素に基づいて行われている。例えば、植物人間は肉体が生きているものの意識が戻らないため、一部ではまだ死亡していないと考えられている。もし、幽子が人間の魂を構成する素粒子であることが明確になり、各個人が独自の幽子を持つことが認識されれば、法律にも影響を及ぼす可能性が考えられる。となると、個人を認証する幽子を持たない者は、生きているとは言わなくなるかもしれない』

 『幽子が個人を特定するということですか?』

 『私は幽子が個人によって異なるものだと推測している。幽子が魂であり、個性が魂によって形成されると仮定すれば、個人個人があまりにも異なりすぎることに疑問を持たないか?』

 『は、はぁ~・・・』

 質問者が気のない返事をしているところを見ると、博士の言葉を理解していないのだろう。

 ガタッと大きな椅子の音を立てて、モニターを見ていた男が立ち上がった。

 「幽子が魂・・・魂が意識・・・幽子を持たない者は、死んでいる?・・・幽子とは?」

 金髪で長身、モデルのような若い男は、ブツブツ言いながら立ち尽くしている。

 「社長!!いかがなされましたか!?」

 椅子の音に驚いた、秘書らしき女性が社長室に飛び込んできた。

 「大至急、これらのデータの詳細を持ってきてくれ!!」


 エクセルシオン・バイオメディカル(Excelsion Biomedical):通称「エクセル・バイオ」

 一見すると病院のような名称だが、医療行為は行っていない。クローン研究を行う営利団体だ。それもかなり《《黒い》》。

 表には顔を出さないような隠れた富豪たちの出資で成り立っており、誘拐や非合法な人身売買で集めた人間での人体実験によるクローン研究。将来のクローン兵や有力者の影武者作成、クローンによる暗殺者作成、殺した人物のクローン再生など。研究も目的も社会的に反することが主だ。設立して20年と経っていないが、非合法手段を取っているだけに最先端のクローン技術を持つ。

 秘書が集めているデータは、クローン技術によって産まれた人間の新生児から幼児の詳細資料だ。

 クローネル社長は三台のモニターを並べて、特に幼児のデータを見比べる。

 注目すべきは同じ個人の遺伝子から生まれた3人の幼児。三つ子のような同じ容姿の3人だが、好きなことや性格が違う。

 自我は魂。魂は幽子。幽子はダークマター。ダークマターは・・・コピーされない?

 「・・・そういうことか!!」

 クローネル社長は叫んだ。

 「役員を呼び出せ!!すぐに会議を始める!!」


 画面分割されたモニターには、10数人の役員の顔が映し出されている。

 「人間によるクローン実験は一時凍結。我々は合法手段の研究へと舵を切る」

 社長の方針に、役員たちは驚きを隠せない。

 「社長!!人間のクローンは諦めたんですか!?」

 「人間のクローン実験が必要ないだけだ。目的は変わらん。今は技術を伸ばせ。ネズミでもウサギでも馬でも牛でもいい。動物実験で100%のクローンを目指せ」

 「「は、はい!!」」

 社長の命令は絶対だ。疑問はあっても異議はない。

 「それと、眠ったまま動かない動物を、成長させる技術を探せ。それが未来のカギになる」

クローネル社長は不敵に笑った。




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