表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
399/405

Fox-Veil(8)

 他愛もない話をしていた佐藤洋子が、レイラの前で突然カクンと項垂れる。顔を上げた佐藤洋子の目つきは鋭く、怒ったように眉間に皺を寄せてレイラを睨んでいた。

「ゼー姉ちゃん!」

 佐藤洋子が裏人格であるゼーと入れ替わったのだ。ゼーは佐藤洋子が押し殺していた怒りや恨みなどの「負の感情」が表に出てきた人格だ。天真爛漫で笑顔を絶やさない佐藤洋子とは対照的に、ゼーは常にむすっとした表情で怒りを貯めこんでいる。

「レイラ・・・」

 ゼーの目がレイラを確認すると、表情が一変し柔和になった。ゼーの声色は洋子のハイトーンと比べて、かなり低く落ち着いている。

「久しぶり・・・でもないか。いらっしゃい。宇宙までよく来たね」

「・・・任務だから」

 レイラとしてはキューピーの護衛任務で宇宙にある錬金術研究所に来たのであり、私用で来たわけではない。

「それでも会いに来てくれたのは素直に嬉しいよ」

 ゼーが穏やかな笑顔を浮かべた。

 ふとレイラは不思議に思う。二重人格は心的要因が解消されると統合されることが多いと聞く。しかしゼーと洋子は完全に別人格であり、二つの魂が一つの体に同居しているようなものだ。何故ゼーは消えてしまわないのだろうか。

「それは洋子がアタシを一人の人間として尊重してくれるからだな。洋子はアタシに消えてほしくないんだよ。・・・ったく、アタシだって洋子の一部だってのにね」

 ゼーの笑みはどちらかというと自虐気味だ。壊れかけた洋子の精神を守るために表面に出てきたゼーだ。洋子の精神が安定したら、本来はゼーが消えるべきだった。なのにゼーは洋子の肉体に同居している。洋子自身がゼーの消失を認めていなからだ。

「それもある意味、洋子の霊能力の高さなのかもしれないな」

「ゼー姉ちゃんは、どうしたいの?消えたいの?」

「いや、消えることは良しとしないよ」

「なんで?」

「洋子が悲しむから。アタシの存在意義は洋子を守るためのモノだからさ。今でも守ってるんだぜ?」

「え?」

「洋子のクローンは霊媒として、3Sの素体に使われているだろ?憑依しているダイバーの心理が流れ込んでくるんだよ。洋子が解離性同一障害を発症したのは、他人の意識を受け止めきれずパンクしそうになったからだ。アタシが洋子の代わりに受け止めてるから、洋子は無事でいられるんだよ」

「ゼー姉ちゃんは、平気なの?」

「シカトしてるからね。全部無視。雑音だよ」

 ゼーは事も無げに笑う。

「・・・強いね」

「良く言うよ。アンタの方が強いじゃないか」

「ううん。ゼー姉ちゃんは、強いよ。私よりも・・・強い」

 レイラの強さは表面的なものだ。ゼーの強さは守るべきものがある者の精神的な強さであり、今のレイラには無いものだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ