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ISCO

 西暦2405年4月。

 国連本部にて「国際宇宙協力機構(International Space Cooperation Organization)通称:ISCO」の設立が発表された。初代「最高統一責任者(Chief Unified Executive Officer)通称:CUEO」には「クワメ・アビオラ(Kwame・Abiora)」が就任した。彼はこれまでの常識にとらわれない未来志向型の人物で、国際法に詳しい仲裁者として実績があり、大国間の紛争の仲裁や災害時の国際協力の取り纏めなどの経験もある実力者であった。


 誰もが国連の「宇宙版」と考えたが、国連との大きな違いは加盟が「国」だけに留まらないことにある。すなわち「企業」「研究団体」も加盟しなければならないのだ。つまり宇宙に携わる全ての団体の加盟を義務付けていた。

 25世紀に入り、企業はよりグローバルな存在となり、発言力も強くなっていた。財政難の国家よりも多くの資産を持ち、宇宙におけるプロジェクトとなると国家予算に匹敵するほどの資本を投入する。グループの総従業員数が3000万人を超える企業まであるのだ。国土とは無関係の宇宙であることから「企業も国家と同様に扱う」ことになったのである。逆に言えば、企業にも公的役割を強いるということでもあった。

 「研究団体」を加えたのは、研究レベルの高さによるものだ。ブラックホール事業はその最たるものである。

 ISCOは加盟した研究団体には多額の資金援助をした上で、研究成果は全てISCOの共有情報とすることを加盟団体の義務とした。新発見や開発状況の秘匿や独占を防ぎ、公共の知的財産とするためである。宇宙に携わる高度な研究は、一部の団体だけでなく広く人類全体に還元されるべきであるという考え方を反映していた。


 これまでの歴史における「国家間紛争」を避けられなかった国連の反省を生かし、ISCOは国際組織として「国家間の調停や協議」などは行わない。宇宙には国土は存在せず、また国家による国土や宙域を認めないことで、宇宙における国家間の枠を取り除こうという意図があった。地球上のことは国連に任せ、ISCOは地球上に於ける事象には口を出さないという意思表明でもある。

 逆に宇宙に於ける事象に関しては、ISCOは絶対的な権限を有することとなった。ISCOに加盟しない国家や企業には一切の協力をしないと明言したのである。これには一部の国家や企業からの反発もあったが、宇宙物流の大手企業「セレス・ロジ」の存在が抑止力となった。さらに重力軽減素材大手の「グラビテック」「アストロテック」もISCOに加盟しているので、ISCOの協力なしでの宇宙開発は20世紀の宇宙開発に戻るようなものであり、必然的に反発の声は聞かれなくなった。

 さらにISCOは軍需産業大手の「アストラル・テクノロジーズ 」の加盟に伴って、独自の武力を持つこととなった。これは「武力行使も辞さない」という意味ではない。小惑星や隕石、または今回の事故のような人工ブラックホールなどから地球を守るためである。とはいえ武力であることに違いはないのだが。

 

 ISCOの存在はインノブ1stのような企業の加盟促進を促した。今回のような事故が起きた場合、ISCOが賠償を肩代わりすることが出来るからだ。その代わりISCOによる企業への監査は厳しいものとなる。

 今回のインノブ1stの事故の原因は、レンズの交換ミスが主原因ではない。主任の指示による、テスト運転を省略したことをISCOでは問題視していた。安全意識の欠如や手順の軽視を主原因としたのである。監査体制を厳格にすることで、事故を未然に防ぐことをISCOの目的とした。


 ISCOは宇宙法の策定も明言している。宇宙に関する法律や規制を策定し、宇宙活動の安全性と持続可能性を確保するための法的枠組みを整備するのである。ただし警察のような収監は行わない。すべて罰金や賠償金、あるいは脱退処置などの罰則しか設けなかった。単純に収監する場所も管理も経費も無駄だからである。宇宙では個人活動できないことから、個人による宇宙法違反というのはほとんどない。あるとすれば組織ぐるみによる違反、若しくは団体による個人の管理不行き届きである。どちらにしろ罰則対象は個人ではなく団体になるので、収監の必要性は皆無なのだ。殺人や盗みなどの犯罪者が出たとしたら、地球に送還した上で地球の法律に任せるだけである。


 ISCOの本部は仮本部として、セレスGWの一角に置かれた。セレスGWは地球と宇宙設備を繋ぐ、人とモノの巨大ハブステーションという理由からだ。現在急ピッチでISCO本部ステーションがセレスGWの近くに建設されている。


 こうして宇宙における統括組織がようやくできることとなった。




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