霊子コンピュータープロジェクト(3)
「それでは本日のところは、これにて解散にしましょう。お疲れさまでした」
ヴィクトールの締めの挨拶で初顔合わせはお開きとなった。各自が自己紹介をしただけである。カインとしては霊子コンピューター開発の概要や、各自の得意分野に応じた役割分担まで大まかに決めてしまいたかったところだが、初の宇宙移動をしたユルティムの体調が優れないということで顔合わせだけとなったのだ。聞けばユルティムは70歳らしい。高齢の身での初宇宙というのは、GBUシステムを搭載した宇宙船でも体力に負担がかかるものなのだろうか。
「計画の見直しが必要かな~」
キューピーの実力は十分に知っているし、ユリもリリーと同等の実力を持っているはずだから戦力として計算できる。問題はヴィクトールとユルティムだ。どちらも科学者としての実績は無いに等しい。ヴィクトールの頭脳が優れているのは散々リリーから聞かされてはいるが、科学者には専門的知識が不可欠だ。エクセル・バイオ・グループの総帥として辣腕を振るっていたとはいえ、開発の戦力になるかどうかは別の話だろう。
ユルティムに関しては70年もの間コールドスリープに入っていたとのこと。年齢から見ても彼の知識は最低でも70年の遅れがあると見ていい。霊子が2222年に発見されたとはいえ、霊子研究が活発になったのは2420年頃。つまりユルティムは霊子研究に於いては全くの素人と言うことだ。年齢からいってもほとんど期待はできないのではないか。
「はぁぁ・・・クローネルさんに期待し過ぎたのかな・・・」
カインの深いため息が一人残った応接室に響いた。
「ヴィクトール!!俺を老人扱いするな!!体調は万全とまでいかないにしろ、悪くはない。自己紹介だけで終わらせることはなかろうが!!」
錬金術研究所内に用意されたユルティムの個室で、ユルティムはヴィクトールに文句を言っていた。
「あなたが嘘を吐くからですよ、ユルティム。いつ、あなたが私の父親になったというのですか?レプリカの元が親だというなら、私の父親はリオネルです。同じリオネルの遺伝子から生まれたあなたと私は兄妹ということになるはずですが?」
「相変わらず頭の固いヤツだ。年齢差を考えろ!!40歳以上も離れた兄妹なんて、常識で考えておかしいとは思わんのか?!」
「事実は事実です。仲間に嘘を吐くことは本意ではありません」
「嘘も方便とも言うではないか・・・頑固者め。まったく・・・誰に似たんだか」
「あなたもわたしもリオネルの遺伝子から作られたレプリカです。二人ともリオネルに似たのでしょう」
「俺もリオネルもお前ほど頑固ではないわ!!」
肩で息をするほど怒るユルティムを、紅茶を飲みながら涼しい顔で受け流すヴィクトール。その口元は笑みを浮かべている。
「ん?何が可笑しい?」
「・・・いえ。久しぶりだな、と思いまして」
「・・・そうか。俺にはつい昨日のようなことでも、お前にとっては70年ぶりか。見た目が変わらんから、気が付かなかったわ」
ユルティムも軽く微笑む。
「それで・・・お前と俺が普通の人間ではないことは、仲間に話してあるのか?」
「・・・そうですね。いい機会ですから、明日、私に近しいものを集めて話をしましょう」
リオネル・クローネルは21世紀後半に遺伝子工学の粋を集めて作られた、推定IQ300を優に超えた『人類最高の頭脳を持つ人間』だ。
二人はリオネルと同じ遺伝子から生まれたクローン(レプリカ)であった。




