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西暦2222年・夏(3)

「ハ~ッハッハ~、ヒ~ッヒッヒ~」

古びた雑居ビルに、しゃがれた笑い声が響く。

「なに、気持ちの悪い笑い方してるんスか?会長」

若い男が笑っている老婆に問いかけた。老婆はモニターを見ながら、いつまでも笑っている。風貌も相まって、若者が感じたのは「魔女の悪巧み」だ。不気味なこと、この上ない。

「ヒッヒッヒ~、これが笑わずにいられるかい?このアタシを追い出したくせに、アタシに救いを与えてくれたんだからね~」

若い男には、老婆の言っている意味がわからない。続きを促そうと黙って老婆を見つめているが、老婆は空を見上げたままニヤニヤしている。

ここは幽霊現象学会(Society for Ghost Phenomena, SGP)の本部。老婆はSGPの会長であり、J.ナカオカ博士とは同僚だったこともある科学者だ。「自称」ではない。


老婆にとって懐かしいシーンが蘇る。


60年以上前の国際素粒子研究機関(International Particle Research Institute, IPRI)の実験棟。怒鳴り合っている若い男女。何と言い合ったか、すでに覚えていない。毎日のように口論していたからだ。

ただし最後のセリフだけは覚えている。

「いつか絶対に見つけてやるから!!私が見つけたら、一発殴らせなさい!!」

「いいだろう!!お前が見つけられたら、好きなだけ殴らせてやるよ!!」

売り言葉に買い言葉。老婆はすっかり思い出すことも無くなったやり取りを、空を見上げながら鮮明に脳内再生していた。


若い男は黙ったままの老婆に痺れを切らし、口を開く。

「しっかし、このナカオカって博士、すごいっスね。いっぺん会って話してみてえっス」

「ハ~ッハッハ~、そう簡単には会えないよ」

若い男が見たことないくらい、老婆はいい笑顔で空をずっと見ている。例えるなら「少女の笑顔」だ。見ている方が照れ臭くなる。

「そ、そうっスよね。今や超有名人っスもんね。一般ピーポーには会ってくれないっスよね」

そういう意味じゃない、と思うも口にはしない老婆。

「あ、もしも・・・もしもっスよ?会長がナカオカ博士と会ったら、何を話すんっスか?やっぱ、例の素粒子と幽霊のことっスか?」

「ん?」

老婆は若い男の方に振り向く。

「アイツに会うのかい?・・・そうさね~」

老婆は静かに目を閉じた。

「まずは一発ぶん殴って・・・ハグして・・・最後に濃厚なキスをしてあげようかね?」




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