瞬間移動検証(7)
「コホン、では気を取り直して、アクアクリスタルの映像の続きと行こうか。7フレーム目からだ」
7フレームでは青白い光の帯が完全に佐藤洋子を覆いつくし、キラキラと輝く無数の光の粒は中央へと集束していた。8フレーム目では青白い光の帯に包まれた洋子の体が、強烈な閃光を放ち周囲が見えなくなっている。
「霊子が反霊子化したエネルギー反応だ。対消滅爆発を起こさずに、瞬間移動のためのエネルギーになっているようだね。反霊子もまた、ただのアンチマターとは違う別の作用を引き起こすことが可能のようだ」
「別の作用・・・ですか」
「そうだね。例えば別の次元の扉を開いたり、だとか」
「・・・そんなことが?」
「9フレーム目を見てもらえば、ボクがそう言いたくなるのも頷けると思うよ」
9フレームには2m離れた先に強烈な閃光が映し出されている。
「8と9を見ただけで、その次元の扉だとかがわかるのか?アタシにはよくわからんけど?」
「え~とゼー君、いいかい?『移動』ってどういうことかわかるかい?」
「モノが動くってことか?」
「移動というものを定義すると、まず動く前の『始点』があり、動いた後の『終点』がなければならない」
「当たり前の話だな」
「さらに移動には始点と終点を繋ぐ『経路』が必要なんだ。でもこの瞬間移動には『経路』が存在しない。始点と終点の間には何も映っていないからね。つまり厳密に言うと、瞬間移動は『移動』の概念から外れてしまうんだよ」
「「「・・・・・・」」」
カイン以外の誰もが、何と言っていいのかわからなくなっている。
「スピードの概念もなければ、移動の概念もない。霊子や反霊子を一言で言えば、常識に全く当てはまらないということになる。霊子にしろ反霊子にしろ、別次元の存在だと思った方が理解しやすいんじゃないかな。意味がわからないのが常識?ハハッ、パラドックスだね」
モニターは引き続き10フレームからコマ送りで進められていく。9フレームで移動先に現れた強烈な光は無数の光の粒子となり、佐藤洋子の体を形取る。光の粒子が消えたところが佐藤洋子の体となり構築されていく様は、まるでデジタル処理された微細なパズルの復元作業のようにも見えた。
「霊子は肉体や服などの通常物質をアンチマター的存在へと変換した上で、移動先で寸分違わず復元する能力を持つようだ。そして反霊子は対消滅する暇もないくらいのスピードで、霊子の通常物質変換と復元のエネルギーとして瞬時に費やされている。いやいや・・・興味深いと言うより恐ろしくなるほどだねえ」
恐ろしいというカインの表情は、新しいおもちゃを前にした子供のように輝いている。しかし他の全員がモニターに釘付けになりながらも、誰もがその映像の美しさと恐ろしさに言葉を失っていた。・・・ヴィクトールでさえも。
「科学的説明とは言ったものの、瞬間移動の原理については科学の方が追いついていないのでちゃんとは説明できないのさ。ただし実在する現象である以上、何としてでも解明してみせるけどね」
力強いカインの言葉によって、瞬間移動の解析は閉められることとなった。