瞬間移動検証(6)
「まだまだ、驚くのはこんなもんじゃないよ。次はアクアクリスタルの映像だ」
アクアクリスタルは霊導体でありながら光は透過する性質を持つため、霊子や反霊子の働きを光学的に観察することが可能となる。
「霊子は青白く光、反霊子は強烈な光となって映し出される。所々キラキラ光って見えるのは、霊子が反霊子化ではない別の反応をしている様子だ」
「別の反応とは何ですか?」
カインの説明にヴィクトールが食いついた。
「ボクらは霊子を自分たちの常識に当てはめてしまってたんだ。霊子と反霊子は、陽子と反陽子のように対になる粒子で、正と負の関係性を持つと思っていた。でもどうやら、もっと別の存在だと言えるようだよ」
「抽象的ですね。具体的に言って下さい」
「ボクにも上手く説明はできないんだけどね。実際にみてもらった方が早そうだ。わかりやすく上下分割してあるよ。上は肉眼と同じ光学的映像で、下はアクアクリスタルでの映像だ。見比べてほしい」
上の映像では洋子の周囲にぼんやりとした光の揺らぎや屈折が現れる。下の映像は洋子の体や手足を、青白い光の帯が螺旋状に巻き付いていた。
「上の映像の揺らぎや屈折の位置と、下の光の帯の量が一致しているだろう?霊子が濃すぎて光を屈折させてしまったのさ」
フレームが進むごとに青白い光の帯は数と密度を増やし、キラキラとした光の粒子が宙を踊り始める。
「これがカインの言う別の反応と言うのですね?説明できますか?」
ヴィクトールの質問に、カインは苦笑する。
「いやあ、実はボクにもよくわかっていないんだ。でもね、上の映像と見比べると、キラキラしたところからヨウコ君の体が透けて消えていくんだよ」
「光の屈折が強くなったせいですか?」
「いや、これはヨウコ君の体がダークマター化してるんだと思う」
「そんなことが・・・?」
「幽子と似たような状態に変換していると言えばいいかな?霊子は自身が反霊子に変換するだけでなく、通常物質をダークマターに変換することが出来るんだよ。触媒としての能力もあるということだ。霊子にこんな能力があるなんて、思いも寄らなかったことだよ。幽体離脱できるクローネルさんなら気付くと思うんだけど?」
ヴィクトールは自身が幽体離脱したときのことを考える。幽体ならば空も飛べるし、どこにでも行ける。どんなに離れた場所でも光のような速さで飛ぶことができた。しかし瞬間移動とは感覚が違うのだが。
「初めて幽体離脱した時を思い出してほしい。肉体に戻ろうと思った瞬間には、もう自分の体に戻っていただろう?あれが瞬間移動だと思ってほしい」
ヴィクトールは初めて幽体離脱でニューヨークの空を飛んだときのことを思い出していた。そろそろ帰ろうとヴィクトールが意識を肉体へと向けた瞬間、ぱちりと目が覚め見慣れた天井が映った。(091話「夢の狭間」参照)・・・あれが瞬間移動なのか。
「全く同じとは言わないけどね。でもかなり似てるんじゃないかな?霊子は肉体のような通常物質を、ダークマター的な性質を持つフェルミ粒子に変換することができると推測してるんだ」
カインの説明にヴィクトールだけじゃなく、幽体離脱ができるゼーもリリーも納得した。ブラキオだけは別のことを思い出していたようだが。
「魔法少女の変身シーンだ・・・」
ブラキオの呟きに真っ先に反応したのはカインだ。
「なるほど!!確かにそう見えなくもない!!言い得て妙だね!!そうか・・・霊子反応によるパワーアップと、コスチュームの『物体取り寄せ(Apport=アポート)』を同時に行えば・・・」
ブツブツと呟きながら自分の世界に入ってしまったカインを尻目に、リリーはジト目をブラキオに向ける。
「アニメやマンガに縁がないと言ってたアンタが、何で魔法少女は出てくるのよ・・・?」
「いやいや、ガキの頃、孤児院で流行ってたんだよ!!こう『月に代わってお仕置きよ!!』って」
ブラキオはピースサインを横に右目に当てて、ポーズまで取って見せる。
「ハイハイ、さっさと続きに入ろうぜ。総帥さんの笑顔が冷たくなってるぞ」
ゼーが手を叩きながら、脱線していた場を取り仕切る。ギョッとした反応と共に、カイン、リリー、ブラキオの三人は慌ててヴィクトールに謝り出した。
「・・・私は皆さんのやり取りを新鮮な気持ちで眺めていただけなのですが?」
「いいから、勘違いさせといた方がいいよ。アイツらすぐに脱線して、話がちっとも進まねえんだから」