瞬間移動検証(5)
「ではこれから瞬間移動の科学的説明をするよ。各自大型ヴィジョンか目の前のモニターを見てくれたまえ」
大型ヴィジョンには4分割された映像が現れる。どれも瞬間移動実験をする前の佐藤洋子が映っており、前後、真上、引いたカメラでの映像だ。
「この映像は1億fpsで撮られているから、どんな些細な現象も見逃していないはずだ。例えば光を撮影すると、1フレームで3mほど進むことがわかる。」
カインの例えに応じるように、大型ヴィジョンの中央に開かれたウィンドウには、1億fpsで撮られた光線がコマ送りで映し出されていた。
「では肉眼と同じように霊子が見えない光学カメラで撮った画像から説明しよう」
画像は瞬間移動をする寸前の佐藤洋子の姿だ。洋子の周囲にぼんやりとした光の揺らぎや屈折が現れる。
「これは膨大な霊子がヨウコ君を包み込むために生まれたエネルギーによって、周囲の空気が熱や光を反射しているんだ」
5フレーム目で洋子の輪郭がぼやけ、徐々に揺らぎ始める。1フレームごとにぼやけと揺らぎが増大し、8フレーム目で小さな閃光を残して消失した。
「・・・消えるのか」「・・・すげえ」
ゼーとブラキオが同時に呟く。
「9フレーム目ですぐに移動先に小さな光の点が現れるよ」
10フレーム以降は消失時の逆再生のように、揺らぎながら洋子を形取り、20フレームで瞬間移動は完了していた。
「全部で0.2μs(マイクロ秒)だよ。・・・最初はボクも衝撃的だったね」
「・・・最初?どういう意味ですか?」
「鋭いねぇ、クローネルさんは。ボクが『最初』って言ったのは、この後で衝撃的な事実がわかるからさ。これを見比べてほしい。ヨウコ君が2mの至近距離で瞬間移動をした時と、13mほどの距離を瞬間移動したものを並べたものだよ。よく見比べてほしい」
画面が横に分割され、上下の画面には引いた画像に映し出された洋子が立っている。
「上は至近距離で、下は少し離れたところに瞬間移動するよ。スタートのフレームは合わせてある」
上下同時に1フレーム目から洋子がぼやけ始め、8フレーム目で小さな光となる。カインは9フレーム目で画像を止めた。
「ここだ!!カメラが引いているからわかりにくいけど、同時に光が発生したのがわかるかい?」
上の画像では2m離れた場所に、下の画像では13m離れた場所に、同時に光点が出現していた。1フレームずつ確認できるように、ゆっくりとコマを送る。上下ともに20フレーム目で瞬間移動は完了していた。
「これがどういう意味かわかるかい?」
「光よりも速い・・・って次元じゃねえよな?」
「ブラキオ君は気付いたみたいだね。そう、速い遅いの話じゃない。そもそもスピードの概念がないのさ」
「・・・説明してください」
ヴィクトールが無表情で続きを促す。
「スピードというのは距離と時間で表される。時速はkm/hで秒速はm/sという具合に。でもこの瞬間移動は距離に関係なく同じ動きをしている。だから『スピードの概念がない』と言えるんだ」
「テレパシーがリアルタイムなのも、光より速いわけではなく、距離を無視している・・・と?」
「そう考えるのが、むしろ自然だね」
解析室が静まり返り、空調のファンの僅かな音だけが鳴り続けていた。
「まだまだ、驚くのはこんなもんじゃないよ。次はアクアクリスタルの映像だ」