瞬間移動実験(4)
「じゃあ、次は私の番だね。リリーもブラキィも、ちゃんと見ててよ」
やる気満々でアクアクリスタルの部屋に入っていく佐藤洋子。
「あ、先生もね♡」
振り向きざまに洋子はカインにウィンクをした。キョトンとした表情のカインを尻目に、洋子はアクアクリスタルの部屋の中央にすっくと立った。
「準備オッケー!!いつでもいけるよ!」
両手をブンブン振る洋子。ブラキオのような準備運動や精神統一は必要ないようだ。アクアクリスタル越しでも洋子の体からは光が見られず、霊子力が高まる様子もないのだが。
リリーが部屋の各所に取り付けられたカメラをチェックし、OKサインを出す。
「ヨウコ君、はじめてくれ」
「は~い」
洋子は右手を真っ直ぐに上げた。
「ようこ、いっきま~す!!」
瞬間、洋子は目も眩むほど強烈な光に包まれ、別の場所が一瞬光った直後、洋子がそこに立っていた。
「・・・・・・」
肉眼では捉えられないスピード。まさに瞬間移動。霊子の働きを目の当たりにしたカイン、リリー、ブラキオの三人は声を出すことも忘れている。
「ほえ?」
三人のリアクションに、洋子は小首を傾げる。拍手喝采とまではいかなくとも、もっと三人が喜ぶと思ってたのに・・・
「すげえ・・・」
ようやく口を開いたのはブラキオだ。
「あんなにすげえ霊力、オレには出せねえ・・・」
アクアクリスタル越しでは霊子は淡く光り、反霊子化すると強烈に光り出す。直接見たのでは一切わからない霊子の働きが良く見える。
「・・・そうね。ここまでとは思わなかったわ」
ブラキオのテレキネシスでは霊子が淡く光ってから反霊子化し、眩く光ってもブラキオの両手は確認できた。しかし洋子の瞬間移動は、洋子の全身が見えなくなるほどの強烈な光に包まれたのだ。ブラキオの霊子力の何倍、何十倍・・・いや何百倍か。
「・・・なあ、先生。霊力を上げる訓練とか薬とか道具とかって、作れねえかな?」
しかしブラキオの呼びかけにも応えられないほど、カインは固まったままだった。
「ん?・・・先生?」
「・・・何だ・・・今のは?」
カインの全身が小刻みに震えている。リリーもブラキオも、いつも飄々としているカインが震えてるのは見たことが無い。
「みんな、大丈夫?」
三人の反応に心配になった洋子が、部屋から出てきていた。
「あ、私たちは大丈夫よ、ヨウコさん」
「ああ。ちょっとビックリし過ぎただけだぜ」
リリーもブラキオも苦笑いだ。
「・・・そう?それならいいんだけど・・・」
「ヨ、ヨウコ君!!」
「は、はい!!」
カインに突然名前を呼ばれた洋子はピンと背筋を伸ばして「気を付け」をしてしまう。
「ヨウコ君は今の瞬間移動を、あと何回できるかな?」
「う~んと・・・休みながらなら、あと3回ぐらい?」
「わかった!!あと2回でいい!!機器を調整するから、あと2回、頼むよ!!」
言うや否や、カインは解析ホールを飛び出していく。
「あ、カイン先生!!私も手伝います!!」
リリーもカインを追ってホールを出ていく。残されたのは、またしても洋子とブラキオの二人だ。
「なあ、姐さん・・・オレはどうしたらいい?」
「う~ん・・・リリーに怒られるから、あっち手伝った方がいいんじゃない?」
「・・・ったく、どうしてあの二人は、ゲストをすぐに放ったらかしにするのかね?」
「好きなことだから、夢中になっちゃうんじゃないかな?二人とも実験とか研究とか好きみたいだし」
「・・・ったく、子供かよ。先生なんか100歳を越えてるって言うのに・・・」
二人は呆れたような遠い目をして佇んでいた。