雑談
錬金術研究所の研究室からリリーとカインが出て行って、すでに3時間が経過している。佐藤洋子は二人が出ていたことに不信も不満も表さず、今日が初対面のペタオ・ブラキオンと雑談に嵩じていた。ブラキオも気さくで物おじしない性格なので、3時間の雑談も全く退屈することが無い。すでにお互いを「ブラキィ」「ヨウコ姐さん」と呼ぶ仲になっている。親しくなった目上の女性に「姐さん」と呼んでしまうのは、ブラキオの癖になっているようだ。
「・・・やだなぁ、私は普通のOLだよ。私のクローンがヴィクトール総帥の役に立ってるだけなんだから~。私自身には何の特徴も特技も無い、普通のおばちゃんだよ~」
「普通のおばちゃんに瞬間移動なんて、できるかっ!!姐さんは普通じゃねえって!!」
カラカラと笑う洋子にブラキオが笑顔でツッコむ。
「だいたい超能力なんて、大概が心の傷だったり、頭のネジがブッ飛んでたり、普通じゃねえヤツがほとんどなんだからよぅ。オレだって両腕無くしたからサイコキネシスが出来るようになったんだぜ。普通なんて、有り得ねえって」
「やだなぁ、私が覚えたんじゃないんだって。ゼーが覚えたから、私もできるようになっただけだよ~」
「だから、その二重人格の時点で、普通じゃねえんだって。姐さんの『普通』ってヤツが、意味不明だぜ」
「~だねえ。私が二重人格になったなんて、自分でも信じられないよ。アハハハ」
「だから普通は精神的に追い込まれたヤツが、現実逃避で二重人格になるんだろ?姐さんはこれっぽっちも悩んでいるように見えねえぜ」
「やだなぁ、これでも悩める乙女なんだよ?」
「乙女ってトシかぁ?」
「じゃあ、悩めるオバちゃん???アハハハ」
「・・・これでオレよりPKがすげえって、有り得ねえだろ」
「やだなぁ、ちっともすごくないよぅ。ほんのちょっとしか移動できないし。何の役に立つのか、ちっともわかんないもん。テレビとかに出たらウケるかもしれないけど、ヴィクトール総帥には『他の人には見せちゃダメ』って言われてるし」
「そりゃあ、おいそれと見せられんわな・・・」
「あ、でもゼーはもっとすごいんだよ!!火を出したり電気も出せるし。でもゼーが教えてくれたのは、この瞬間移動?だけだった。あとは『危ないから教えてあげない』だって」
「っかーっ!!そんなにすげえのかよ、ゼー姐さんは」
「あっ・・・ゼーが『アタシよりもっとすごい女の子が、ヘイゼルさんの弟子になった』って」
「な、なにぃ~~~!?団長が弟子を取ったのか!?」
「何だか、新しい団員になったんだって?」
「・・・オレぁ後輩にも抜かれてんのかよ・・・っていうか、ヨウコ姐さんはゼー姐さんと話が出来んのか?」
「うん。ゼーはいつも私の裏から見てくれてるよ。でも私からはゼーが表にいるときに何をしてるのか、見せてくれないんだ。私が寝ちゃってるだけなのかな?」
「姐さん、寝るの好きそうだもんな」
「うん。12時間ぐらい寝てられるよ」
「寝すぎだろ!!」
雑談は3時間を過ぎても、まだまだ終わりそうになかった。