特訓
「ヘイゼルさん、こんなところで何しようってんだ?」
ゼーがヘイゼル・ブランカに呼び出されてやってきたのは、エクセル・バイオ本社のある島国。エクセル・バイオ本社から外に出るには厳重な検問を通らなければならないのだが、ヴィクトールの側近に値するゼーならば当然スルーだ。検問にはサイコゲノム(Psycho Genome)認証装置が備え付けられている。全社員の魂情報が登録されており、仮に社員に憑依して侵入しようとしても検問を欺くのは不可能だ。クローン転生が一般レベルにまで浸透しつつあるエクセル・バイオならではの措置と言えよう。
本社を出たゼーはヘイゼルに指定された山奥の方に向かう。森を抜けた先は切り立った崖に囲まれた、広場になっていた。ただでさえ人口が少ない島国の山奥だ。人の気配はどこにもない。
「何だよ・・・人を呼び出しておいて、誰もいねえのか?」
ゼーが愚痴をこぼした時、突然背後に人間の気配を感じ、咄嗟に飛び退き身構える。
「すごいな、ゼーのその身のこなし。どうかな?今からでも我が団に入らないか?」
瞬間移動(Teleportation=テレポーテーション)で現れたのはヘイゼル・ブランカ。彼の足には10歳にも満たない少女がしがみついている。
「冗談はよしとくれ。アタシに団は荷が重いよ」
ヘイゼルの言う「我が団」とはヘイゼル・ブランカの魂である「フェノーメノ・モンストローゾ」が生み出された秘密結社「永遠の輝き団(Hermetic Order of Eternal Radiance)」のことだ。フェノーメノ・モンストローゾを葬ろうとした国家や裏組織を撃退し続けることで、逆に暗殺組織のトップに立つ。組織構成員は社会に適合できない異能者を中心として、フェノーメノ・モンストローゾが「ヘイゼル・ブランカ」としてヴィクトールの仲間となったことで、永遠の輝き団はエクセル・バイオの裏組織として暗躍している。
「ねえねえ、団長様。このオバサン、だぁれ?」
ヘイゼルの足にしがみついていた黒髪の少女が口を開く。
「オバ、オバサン???」
ゼーはクローン転生で20歳になっている。さすがに「オバサン」と呼ばれるのは心外だ。
「ハハハ、済まないな、ゼー。この娘は人を魂そのもので視てしまうのだ。悪気はない」
確かに魂で言えばゼーも60歳近い。それでも人を魂で視るなんて、どんな霊感をしているのか。
「彼女の名は『レイラ・アズミ』。私がこの島で見つけた逸材だよ」
レイラは3歳にしてこの島国に住む3000人余りの全ての人間の顔を認識記憶した超能力を持つ。
「団長様、今日は何して遊ぶの?」
「今日はこちらの『ゼー』といっしょに遊んでもらうぞ」
「わ~い、やったぁ!ゼーさん、よろしくね!」
レイラが差し出した手を愛想笑いで握るゼー。瞬間に何かが流れ込んでくる。これは、レイラの霊子?
「レイラは霊力が強すぎてな。まだ自力でコントロールできていないのだ」
「おいおい・・・この子と遊ぶって・・・」
「二人にはいろいろなPK(Psychokinesis)を教えよう。一人に教えるより、二人の方が効率がいいだろ?」
ゼーにとって地獄の特訓の幕開けだった。