3S(12)
解析室の複数のモニター画面の一つが切り替わり、ヴィクトールの姿が映し出される。
「そ、総帥様・・・」
「クローネルさん・・・」
「あ・・・えっと・・・オレは何て呼べばいいんだ?」
ペタオ・ブラキオンはエクセル・バイオの人間ではない。画面越しとはいえ、今回が初対面である。
「はじめまして、ペタオ・ブラキオン。私のことは『ヴィクトール』と気軽に呼んでください」
金髪の美女の笑顔に、ブラキオは瞬間に舞い上がる。
「そ、そうか!ありがてえ!んじゃ、遠慮なく、ヴィ・・・」
バチコーンッ!!
リリーの平手が容赦なくブラキオの頭を引っ叩く。
「いってえ!!何すんだよ、お嬢!!」
「アンタなんかが気やすく呼んでいいお方じゃないのよ!!立場をわきまえなさい!!」
「クスクス・・・」
ヴィクトールの笑い声に、リリーは顔を真っ赤にした。
「リリー、随分と変わりましたね」
「あ・・・総帥様・・・私ったら、はしたない真似を・・・」
「いいじゃないですか。感情に溢れる今のリリー、私は嫌いじゃないですよ」
「あ・・・いや・・・」
リリーは恥ずかしさと嬉しさで、ますます顔を赤くした。
「ズルいなぁ、クローネルさん。いつから盗み見していたんだい?」
恥ずかしさで顔を隠してしまっているリリーと、リリーに怒られ口を閉ざすブラキオを尻目に、カインはいつも通りにニコニコしながらヴィクトールに問いかける。
「盗み見とは人聞きの悪い。錬金術研究所に出資した時に、研究成果は全てリアルタイムに報告するように言っていたはずですが。私の優秀なスタッフが毎回、霊子回線を繋いでいてくれていたのです」
「リアルタイムに報告って、そういう意味だったのかい?知らなかったよ」
「今回はたまたま時間が合ったので、最初から見させていただきました。ペタオ・ブラキオンは中々優秀なテストダイバーのようですね。ヘイゼルが推薦しただけあります」
「へへへ、総帥さん、ありがとよ。俺のことは『ブラキオ』と呼んでくだせえ」
「フフフ。ブラキオのクローン転生の件は、もう少し待ってください。アレアの件と同様に善処します」
「ぃよっし!!」
ヴィクトールの言葉に、ブラキオは小さくガッツポーズをする」
「あ、総帥様、『善処』って具体的にどうするのですか?」
「クローンは後天的肉体スキルもコピーできることを、リリーは知っていますか?」
「・・・いいえ」
「そうでしたか。エクセル・バイオ初代社長のリオネル・クローネルのクローン研究のデータは、すべて抹消されてしまったので無理もありません。音楽やスポーツをしていた人のクローンは、はじめからスキルを身に着けていたのです」
「と、いうことは、ヨウコさんにPK能力を身に付けさせるということですか?」
「当たらずとも遠からず、と言ったところですね」
ヴィクトールは優雅に微笑んだ。