3S(1)
アステロイドベルトの中央付近には、研究団体「錬金術研究所(Alchemia Institutum)」が小惑星で作った「α基地」「β基地」が連なっている。直径5㎞の小惑星を二つに割った基地はエクセル・バイオの「GU(Gravity Urbanization=人工重力都市化)計画」のプロトタイプでもあり、普段はGシールドに包まれておりレーダーでも見つけることはできない。秘匿性が高いためエクセル・バイオは錬金術研究所に各種計画の研究依頼をしていた。エクセル・バイオとは資本を異とする別団体ではあるが、資本を出しているのはヴィクトール・クローネル個人であり、代表を務める「アレックス・カインシュタイン」はエクセル・バイオの最先端技術にてクローン転生している。エクセル・バイオの子会社に等しく、ヴィクトール・クローネルの子飼いとも言える「リリー・アルベリス」が助手として出向していた。
数多くの研究依頼を抱えているが、ここ数日は一つの計画に掛かりきりである。
「Schwerkraft Seele Steuerung 計画」
ドイツ語で「重力魂制御計画」と名付けられた計画は、超大国が進める「Gravity Ghost Gear計画」の元となった「ホムンクルス計画」の進化版である。Gravity Ghost Gearが「3G」と呼ばれているため、揶揄するようにエクセル・バイオでもSchwerkraft Seele Steuerungのことを「3S」と呼んでいた。
魂のみを憑依させダイバー(パイロット)が搭乗しない無人機の3Gに対し、3Sはダイバーが憑依するにも拘らずコックピットのある有人機となっている。そのため3Gは体高9mほどだが、3Sは倍の18mほどの大きさとなっていた。
スーパーロボットを彷彿とさせる武骨なシルエットの3Gと比べ、3Sは同じコンセプトながらシルエットは大きく違う。大きめな卵型の頭部に細い首、肩幅は狭く腕は滑らかな流線を描き細い。コックピットのある胸部は厚みがあるが腹部は細く、ボールジョイントで構成された腰部から伸びた長い足は艶めかしさすら感じさせる。3Sは一目で美しい「女性」を思わせるシルエットであった。
3Sの試作型第1号機は「アレア(Alea)」とヴィクトール・クローネルによって命名された。アレアとはラテン語で「サイコロ」を意味し、由来は「アレア・イアクタ・エスト(Alea iacta est=賽は投げられた)」から来ている。3Sは軍事用であることから、この機体の開発が未来を大きく変える運命的な一歩であることをヴィクトールは暗に籠めたのである。
試験稼働を終えた3Sのアレアのコックピットから降下してきたのは、アレアのシルエットとは対照的な顔半分が髭で覆われた筋肉ダルマのような男だ。3Sのテストダイバーを務める元「永遠の輝き団」の構成員だった「ペタオ・ブラキオン」であった。