リオネル・クローネル(22)
リオネル・クローネル、余命3年。ユルティムと残された各世代のクローンは、総力を挙げてリオネル・クローネルの女性クローンの作製に邁進する。
何のために?明確な理由などない。
将来の完全なリオネルのクローン作成の土壌とも言える女性クローンだが、リオネルの余命が宣告された以上、大きな意義とは言えなかった。魂はクローンへとコピーされないのだ。輪廻転生を信じてもいいが科学的根拠は皆無だ。こじつけでしかない。
「リオネル・クローネルの最後の研究をカタチにしたい」
あえてユルティムの行動の理由付けをするならば、この言葉が一番適切だろう。
ユルティムはエクセル・バイオ本社のある島国を実効支配し、本社の要塞化を推進する。これ以上リオネルのクローン研究の邪魔をさせるわけにはいかないのだ。
ユルティムは観光産業に頼り切った政策を変えさせ、完全鎖国を国政とさせた。国民は働かなくともエクセル・バイオが快適な暮らしを保証する。時代錯誤の政策に世界は反発するが、食糧事情を盾に取り黙らせた。エクセル・バイオを非難するなら汚染された肉を食えばいい。インターポールなど手も出させない。入国すら許さない。
体勢を万全に整え、ユルティムたちは本社に籠り研究を進める。
どうせ遺伝子を操作するならば、リオネルを越える天才にしてもよいのでは?クローンと遺伝子操作の融合。隔離された本社の研究室の中で、ユルティムたちは全員マッドサイエンティスト化したかのようだった。
リオネルの女性クローン化に目途がたった頃、リオネルは危篤に陥る。リオネルは途切れ途切れになる意識の中、遺言を残した。
「・・・私のクローンを作るのは、私の代で終わりにしよう。・・・お前たちに罪はない。罪を犯す必要もない。・・・私の研究に囚われず、お前たちの人生を生きるがいい。・・・時代が早すぎたのだよ。・・・心残りは確かにある。・・・だが・・・それでいい。・・・私の夢は、いずれ叶う。・・・あの世で楽しみに待とう・・・」
リオネル・クローネル。享年181歳。
リオネルが息を引き取った後も、ユルティムたちは女性クローン研究を止めなかった。リオネルのためではなく、自分たちがやりたいこととして。ただひたすらに完成を求めて。
「女性へと性転換した上で生殖能力のあるリオネル・クローネルのクローン。それが『ヴィクトール・クローネル』殿という訳だな」
「そういうことです」
ヴィクトールが静かに答えた。
「100%じゃないとすると、総帥殿はどれくらいの能力をリオネル殿から引き継ぐことが出来たのかな?」
「人間の能力をデジタル化できたわけでは無いので、あくまでも遺伝子情報からの推測ですが・・・87%に過ぎません。クローンとして言えば劣化版。欠陥品と言ってもいいでしょう」
残りの13%はリオネルを越える遺伝子なのではないのか?
ヘイゼルは言葉を飲み込んだ。リオネル・クローネルを越える可能性を口にしたところで、ヴィクトールが喜ぶとは思えない。
「それで、総帥殿は『リオネル・クローネルのクローン』を産むのかな?あなたの存在意義なのであろう?」
「どうでしょうか・・・リオネルの遺言は『リオネルのクローンは終わり』ということですから」
無表情で目を伏せるヴィクトールと同じように、ヘイゼルも紅茶に口を付けた。